「キャリアパスという言葉を耳にする機会は多いけれど、具体的な意味を正しく説明できない」
「キャリアプランやキャリアビジョンとの違いがわからず、部下への説明に困っている」
「自社に導入したいと考えているが、何から手をつければよいのかわからない」
このように悩んでいませんか? 労働人口が減少する中、社員に自社での明確な成長の道筋を示す「キャリアパス」の重要性は高まっています。
そこで本記事では、キャリアパスとは何かや導入のメリット、設計手順を6つのステップで解説します。職種別の具体例や面談での活用法、成功・失敗事例についても紹介するため、自社に合った制度構築の全体像を把握できます。
キャリアパスを正しく設計して、社員のモチベーション向上と組織の属人化解消に役立ててください。
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キャリアパスとは

キャリアパスとは、企業内で従業員が目標とする役職や職務に到達するために必要な「道筋」や「プロセス」を具体化したものです。
どの程度の経験を積み、どのようなスキルを習得すれば次のステップへ進めるのかを可視化することで、従業員の成長意欲を高める効果があります。
キャリアプラン・キャリアビジョンとの違い
キャリアパスとよく似た言葉に「キャリアプラン」や「キャリアビジョン」がありますが、主体や対象範囲が異なります。
| 用語 | 主体 | 意味 |
| キャリアパス | 企業 | 組織内での昇進・昇格やスキルアップの道筋・ルート |
| キャリアプラン | 個人 | 人生全体を含めた長期的な職業生活の計画 |
| キャリアビジョン | 個人 | 将来「こうなりたい」という理想の姿やゴール |
キャリアパスはあくまで「企業が用意した道筋」です。一方で、キャリアプランやキャリアビジョンは「個人が描く未来図」を指します。
企業がキャリアパスを導入する目的と背景

ここでは、企業がキャリアパスを導入する目的を紹介します。
社員の離職を防ぐため
キャリアパスの導入は、離職の直接的な原因となる「将来への閉塞感」を解消するために有効です。
転職サービスdodaの調査によると「給与が低い・昇給が見込めない」「昇進・キャリアアップが望めない」といった「将来への見通し」に関する不満が、退職理由の上位を占めています。
給与や待遇が良くても、「この会社にいて自分がどう成長できるのか」がイメージできない組織からは、優秀な人材ほど早々に見切りをつけてしまいます。キャリアパスによって数年後のポジションや獲得スキルの道筋を明確に示すことは、こうした「見通しのなさ」による離職を食い止める決定打となります。
出典:doda「転職理由ランキング【最新版】 みんなの本音を調査!」
優秀な人材を獲得するため
キャリアパスを導入する目的は、採用市場で自社が選ばれるための「強力なアピール材料」にするためです。
特に成長意欲の高い求職者は、給与条件だけでなく「入社後にどのようなスキルが身につき、どう評価されるか」をシビアに判断します。
そのため、キャリアパスを公開している企業は、成長のステップや評価基準が透明であると見なされるため、競合他社よりも魅力的に映るでしょう。それに伴い、意欲の高い層が応募することにもつながります。
キャリアパスの代表的な4つの種類

企業の規模や業種、組織風土によって適したキャリアパスの形は異なります。自社の状況に合わせて最適なモデルを選択したり、組み合わせたりすることが重要です。
ここでは4つのモデルを紹介します。
| 種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
| 単線型 | 全社員が一つの職種を目指す一つのルートを進む。 | 組織の統制がとりやすく、指揮命令系統が明確になる。 | ポスト不足で昇進が停滞しやすく、管理職に向かない専門人材が離職しやすい。 |
| 複線型 | 「管理職コース」と「専門職コース」など、適性に合わせて選択できる。 | 多様な人材が活躍でき、専門性を活かしたキャリア形成が可能。 | 評価基準の設計が複雑になりやすく、コース間の待遇差に不満が出ることがある。 |
| 職種別 | 営業、事務など、職種ごとに異なるルートを設定する。 | 各職種の専門性を追求でき、スキルの習熟度を評価しやすい。 | 職種間の異動が難しくなり、組織の柔軟性が低下する恐れがある。 |
| 自律型 | 会社が決めたルートではなく、社員自身が目指すキャリアを選択・構築する。 | 社員の主体性を引き出し、モチベーション高く働ける環境を作れる。 | 社員の自己管理能力が求められ、希望するポストがない場合の調整が難しい。 |
近年では、多様な働き方を推進するために「複線型」や「自律型」を取り入れる企業が増えています。特にエンジニアやクリエイターなどの専門職を多く抱える企業では、管理職にならなくても評価・昇給される仕組み(スペシャリストコースなど)の導入が効果的です。
従来の「出世=管理職」という単一のゴールしかない環境では、マネジメントを望まない優秀な現場のプロフェッショナルが行き場を失い、離職してしまうからです。
【6ステップ】効果的なキャリアパスの設計方法・書き方

ここでは、キャリアパス制度を構築・見直しする際の手順を、6つのステップに分けて解説します。
【ステップ1】自社の現状分析と等級定義を行う
まずは、自社の組織構造や人材の現状を分析し、求める人材像を明確にします。
いきなりキャリアパスを描くのではなく、社員の能力や役割を段階分けする「等級」の設定から始めるのが大切です。
等級とは、社員のレベルを表す格付けのことです。日本企業の場合、主任・係長・課長・部長などの役職で設定するケースが一般的ですが、一般従業員も経験やスキルに応じて複数の階層を設けるとよいでしょう。
例えば「入社5年目でリーダー、10年でマネージャー」といったように、経験やスキルを重ねるほど上級の職務になるよう設定します。ポジションの名称は「ジュニア・シニア」など、自社の業態や業務の特質に合わせて決めると、客観的な成長のモノサシができあがります。
【ステップ2】 職種ごとのコースを設計し、多様なロールモデルを提示する
次に、職種や役割に応じたキャリアのコースを設計しましょう。
「営業職」「技術職」「事務職」など、職種ごとに求められるスキルや経験は異なります。それぞれの職種で、新入社員から管理職などに至るまでのステップを描き出します。
この際、単に役職を並べるだけでなく、社内で活躍している社員をロールモデルとして提示すると、従業員はより具体的なイメージを持ちやすくなります。
【ステップ3】昇進・昇格基準や評価・報酬制度と連動させる
キャリアパスは、人事評価制度や報酬制度と連動していなければ機能しません。
「このスキルを身につければ等級が上がり、給与がこれだけ増える」という関係性が明確であれば、従業員は納得感を持ってスキルアップに取り組めます。
昇格要件(必要な資格、経験年数、評価結果など)を明確にし、キャリアパスの各段階における待遇を可視化しましょう。
【ステップ4】研修や育成体系を整備する
提示したキャリアパスを実現するサポート体制として、教育研修制度を整備します。
「次のステップに進むためには何が必要か」を示した上で、そのための学習機会(OJT、社外研修、eラーニング、資格取得支援など)を提供します。従業員が自律的に学べる環境を整えると、キャリアパスの実現可能性が高まります。
【ステップ5】 運用ルールを策定し周知する
制度が完成したら、運用ルールを定めて全社員に周知します。
説明会を開催して、制度の目的や活用方法を丁寧に伝えましょう。
【ステップ6】定期的な見直しと運用改善を行う
制度導入後は、定期的に運用状況をモニタリングし、改善を行います。
以下のような指標(KPI)を設定し、制度が効果的に機能しているかを確認しましょう。
- 離職率の変化
- 異動希望の充足率
- 社内公募への応募率
- 1on1ミーティングの実施率と満足度
現場の声やデータを分析し、実態に合わなくなった基準やコースは見直していく運用が求められます。
職種別のキャリアパスの具体例2選

キャリアパスは職種によって描き方が異なります。単に役割を羅列するのではなく、どの経験を経てどこへ向かうのかという「道筋」を示すことで、従業員の納得感が高まります。
ここでは主要な2つの職種について、キャリアパスの例を紹介します。
営業職のキャリアパス例
営業職のキャリアパスは、管理職を目指す以外にも多角的な選択肢が存在します。個人の適性に応じた代表的な4つの進路については、以下の通りです。
| キャリアパス | 概要 |
| 事業マネジメント | 経営目標や事業目標の達成を担う王道ルート。小規模組織の管理を経て、事業全体の統括へと昇進する。 |
| スーパープレイヤー | 個人で圧倒的な売上を創出する。売上目標や所属部門の売上目標達成がミッション。 |
| 営業企画 | KPIの改善をミッションとし、生産性向上のための方法を言語化する力や施策に落とし込むアイデア力が求められる。 |
| 特命担当 | 経営者直下で多岐にわたる任務を遂行。新規事業の立ち上げなど、柔軟な対応力で課題を解決するルート。 |
キャリアパスを選ぶ際は、営業として培った対人能力を、どの領域で最大化させるかを判断することが大切です。
本人の強みが「組織の牽引」にあるのか、あるいは「専門性の追求」にあるのかを慎重に見極める必要があります。
エンジニアのキャリアパス例
エンジニア職も、技術の深掘りか、あるいは組織運営の支援かによって進路が大きく分かれます。代表的な3つの方向性について、それぞれの特徴をまとめました。
| キャリアパス | 概要 |
| スペシャリスト | 特定の技術領域を深く追求するルート。将来的にCTOなどの最高技術責任者を担う可能性も。 |
| ゼネラリスト | 設計から運用まで幅広い工程を横断的に担当。プロジェクトを円滑に進めるリーダー的な役割。 |
| マネジメント | チームや組織全体の成果に責任を持つ。経営層に近い立場から、企業の意思決定に関わる機会も増える。 |
※提示したキャリアパスは一つの例です。現場の実態に即して要件を定義しましょう。
部下の成長を促すキャリアパス面談の3つのポイント

キャリアパスを設計するだけでなく、現場マネージャーが部下との対話(1on1や評価面談)を通じて、キャリアパスを自分事として捉えてもらうことが重要です。
現場マネージャーが部下との対話でどのようにキャリアパスを活用すべきか、ポイントを整理しました。
| ポイント | 具体的なアクション |
| ①本人のキャリアプランとすり合わせる | 一方的に会社のパスを押し付けず、まずは部下の「やりたいこと」を聞き出す。「会社の目標」と「個人の目標」が重なる部分を見つけ、目の前の仕事の意味づけを行う。 |
| ②マネジメント職以外の選択肢も提示する | すべての部下が管理職志望とは限らない。「現場業務を極めたい」という部下にはスペシャリストの道を提示する。 |
| ③定期的に目標の進捗と方向性を確認する | 年1回の評価面談だけでなく、月1回の1on1などで進捗を確認する。ライフステージの変化に合わせて、キャリアの方向性を軌道修正する機会を設ける。 |
具体的な面談の進め方や、部下の本音を引き出すための質問例などについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
キャリア面談とは?社内で実践するメリットや進め方、成功のコツなどを解説
キャリアパス制度を導入した企業の事例

実際にキャリアパス制度を導入し、組織の活性化や人材定着に成功している企業の事例を紹介します。また、制度導入における失敗例もあわせて確認し、自社での運用に役立てましょう。
【成功例】ジャングルジム型のキャリアパスの形成
イケア・ジャパンでは、従来の「はしご型」のように上を目指すだけのキャリアパスではなく「ジャングルジム型」と呼ばれるユニークなキャリア形成を推奨しています。
ジャングルジム型とは、上方向への昇進だけでなく、横方向や斜め方向への異動も評価する考え方です。例えば、店舗の物流部門から本社のマーケティング部門へ異動するなど、職種や部門を超えた「ジョブチェンジ」が活発に行われています。
社内公募制度を通じて、従業員が主体的に自身のキャリアを設計できる環境が整っており、フルタイム正社員だけでなく短時間勤務正社員などライフスタイルに合わせた働き方も選択可能です。
このように、会社が決めたレールではなく、従業員がジャングルジムを登るように自由に行き先を選べる仕組みが、高いエンゲージメントと定着率につながっています。
出典: IKEA Japan「イケアでのキャリアパス」
【失敗例】ポスト不足による「キャリアの渋滞」
キャリアパス制度を作ったものの、かえってモチベーションを下げてしまう失敗例もあります。
注意したいのが「キャリアパスは示されているが、ポストが空いていない」という構造的な問題です。
会社は「成果を出せば課長になれる」というキャリアパスを提示していても、現実には上の世代がポストを埋め尽くしており、若手が昇進できる余地がまったくないケースが多々あります。この「キャリアの渋滞」を目の当たりにした若手社員は、提示されたパスを「実現不可能な絵空事」と捉えて「ここでは将来がない」と考え静かに離職していきます。
そのため、ポスト不足による離職を防ぐためにも、制度を作るだけでなく、役職定年制の導入や、役職につかなくても給与が上がる制度の拡充などを行いましょう。
キャリアパスの構築ならcoachee人事シェア

キャリアパスとは、企業内で従業員が目標とする役職や職務へ到達するための道筋を具体化したものです。必要なスキルや経験を可視化することで、社員の成長意欲を引き出し、離職防止や採用力強化につなげられます。
設計時は、等級定義と評価・報酬制度を連動させることが重要です。
とはいえ、自社独自のキャリアパス設計や、既存制度の形骸化に課題を感じている企業もいるでしょう。そこで自社に適した制度を構築し、組織を活性化させたい場合は「coachee人事シェア」が役立ちます。
経験豊富な人事のプロが、キャリアパスの設計から導入後の運用改善までを貴社の課題に合わせて伴走しサポートします。初期費用0円で導入でき、採用や育成などの人事課題も一括して相談できるのが強みです。
まずは無料相談を利用して、自社の組織に最適なキャリアの描き方を検討してみてください。