「経営層から人的資本経営への対応を指示されたが、何から手をつければいいのか分からない」
このような悩みを抱える人事担当者や経営者の方もいるのではないでしょうか。
本記事では、人的資本経営の基本的な考え方から開示義務の内容、社内で推進する手順、企業の事例までわかりやすく解説します。自社の人的資本経営を推進したい方は、ぜひ最後までお読みください。
人的資本経営に自社内だけで対応するのが難しい場合は、人事のプロに相談してみるのもおすすめです。ぜひ下記から詳細をご確認ください。
人的資本経営とは?
人的資本経営とは、人材を消費される「資源(コスト)」ではなく、価値を生み出す「資本(投資対象)」として捉える経営のあり方です。
従来の人事管理では、人件費をいかに抑えるかが重視されがちでした。一方、人的資本経営では教育や研修、働きやすい環境づくりなどへの投資を通じて、社員一人ひとりの能力を引き出し、中長期的に企業価値を高めることを目指します。
経済産業省も「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」と題した特設ページを設け、企業の取り組みを後押ししています。人的資本経営は単なるトレンドではなく、企業の持続的な成長を支える経営戦略の土台といえるでしょう。
参考
人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~|経済産業省
「人材版伊藤レポート2.0」を取りまとめました|経済産業省
従来型の人事管理との違い
人的資本経営と従来型の人事管理には、主に3つの観点で違いがあります。
| 比較項目 | 従来型の人事管理 | 人的資本経営 |
|---|---|---|
| 人材の捉え方 | 消費される「資源」「コスト」として扱う | 価値を生み出す「資本」「投資対象」と捉える |
| マネジメントの目的 | 労働力の効率的な管理や人件費の最小化 | 人材への投資を通じた中長期的な企業価値の向上 |
| 経営戦略との連動性 | 人事部門が独立して採用・労務管理を担う | 経営陣が主導し、経営戦略と人材戦略を一体で推進する |
従来型では、人事部門が採用や給与計算、労務管理などの実務を独立して担うケースが一般的でした。経営戦略と人材戦略が切り離されているため、「経営目標を達成するために、どのような人材が必要か」という視点が不足しがちです。
これに対し人的資本経営では、経営陣が自ら人材戦略の策定に関与します。自社のビジョンや事業計画から逆算し、必要な人材像の定義、育成計画の立案、組織体制の見直しまで一貫して行う点が特徴です。
人的資本経営が義務化される時期
2023年1月に内閣府令が改正され、2023年3月期決算以降、有価証券報告書を発行する企業に対し人的資本に関する情報開示が義務化されました。対象となるのは、上場企業を中心とした約4,000社です。
具体的には、有価証券報告書の「従業員の状況」欄において、女性管理職比率、男性育児休業取得率、男女間賃金格差の3項目の記載が求められています。加えて「サステナビリティに関する考え方及び取組」の欄では、人材育成方針や社内環境整備方針の開示も必要です。
現時点で義務化の対象は有価証券報告書を提出する企業に限られますが、今後を見据えて今のうちから自社の人材データを整備し、開示に備えておくことが重要です。
社内での対応が難しい場合は、coachee人事シェアを活用するなど、外部のプロ人材の知見を活用してみてはいかがでしょうか。
人的資本経営伊藤レポートによる普及
人的資本経営が日本企業に広まった背景には、経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート」の存在があります。
2020年に公表された初版レポートでは、経営戦略と人材戦略を連動させる重要性が提言されました。続く2022年には「人材版伊藤レポート2.0」が公表され、企業が取り組むべき具体的な方向性やポイントなどが示されています。
こうした動きの背景には、世界的なESG投資の拡大や、リモートワークや副業解禁など多様な働き方が浸透し、個人の価値観やキャリア志向の多様化が挙げられます。
企業が人的資本経営に取り組むメリット
人的資本経営に企業が取り組むメリットを解説します。
生産性と企業価値の向上
人的資本経営の取り組みは、組織全体の生産性向上に直結します。
たとえばリスキリングの機会を社員に提供することで、DXや新規事業といった成長領域に対応できる人材を社内で育成できます。また適材適所の人材配置を経営戦略と連動させて行うことで、一人ひとりが強みを発揮しやすくなります。
社員のパフォーマンスが上がれば、売上や利益といった財務指標の改善にもつながり、結果として企業価値の向上が期待できるでしょう。
従業員エンゲージメントの向上
人的資本経営では、社員を「投資対象」として捉え、成長の機会やキャリア支援を積極的に提供します。こうした取り組みは、社員の働きがいやエンゲージメントの向上につながります。
一方で成長機会が乏しく評価制度も不透明な環境では、優秀な人材ほど早期に離職してしまうリスクが高まります。
関連記事:【実践ガイド】従業員エンゲージメントとは?向上施策や事例、導入手順を解説
投資家からの評価獲得とブランド力強化
人的資本に関する情報を積極的に開示することは、投資家からの信頼獲得に効果的です。
近年はESG投資の拡大に伴い、投資家が企業の非財務情報を重視する傾向が強まっています。加えて、人的資本経営への取り組みは採用市場でのブランド力向上にも寄与します。
「社員を大切にしている企業」というイメージが定着すれば、採用活動における母集団の質と量の両面で改善が見込めるでしょう。
人的資本経営で求められる情報開示の項目
人的資本経営に取り組むうえで、どのような情報を開示すべきか把握しておく必要があります。2022年8月に内閣官房が公表した「人的資本可視化指針」では、開示が望ましい項目として以下の7分野19項目が示されています。
| 分野 | 主な開示項目の例 |
|---|---|
| 育成 | 研修時間、研修費用、スキル向上プログラムの内容 |
| エンゲージメント | 従業員満足度調査の結果、エンゲージメントスコア |
| 流動性 | 離職率、定着率、内部異動の比率 |
| 多様性 | 女性管理職比率、男女間賃金格差、障がい者雇用率 |
| 健康・安全 | 労働災害発生率、メンタルヘルス対策の実施状況 |
| コンプライアンス・倫理 | ハラスメント相談件数、倫理研修の実施率 |
| 労働慣行 | 育児休業取得率、平均残業時間、柔軟な働き方の導入状況 |
有価証券報告書での開示が義務付けられている項目は、女性管理職比率、男性育児休業取得率、男女間賃金格差の3つです。
ただし投資家やステークホルダーからの期待に応えるには、義務項目にとどまらず、自社の経営戦略に関連する項目を選んで積極的に公開することが望ましいでしょう。
また、単に数値を並べるだけでなく「なぜその施策に取り組んでいるのか」「今後どのような改善を目指すのか」といったストーリーも伝えることが重要です。
人的資本経営を社内で推進する手順
人的資本経営を自社で進める手順を解説します。
1. 経営戦略に基づく人材像の定義
最初に取り組むべきは、自社の経営戦略やビジョンから逆算して「どのような人材が必要か」を明確にすることです。
たとえば、3年後に海外市場への進出を計画しているのであれば、語学力や異文化コミュニケーション能力をもつ人材が求められます。DXを推進したい場合は、デジタル技術に精通した人材やデータ分析スキルをもつ人材が必要になるでしょう。
ここで重要なのは、経営陣と人事部門が連携して人材像を定義する点です。人事部門だけで検討すると、現場の実態や経営方針との間にズレが生じやすくなります。経営会議の場で議論し、全社的な合意のもとで人材像を言語化しましょう。
2. 現状把握とKPIの設定
求める人材像が定まったら、自社の現状をデータで可視化します。社員のスキル構成、年齢分布、離職率、エンゲージメントスコアなど、定量的に把握できる項目を洗い出しましょう。
現状データと理想の人材像を比較すると、ギャップが見えてきます。そのギャップを埋めるための具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定してください。KPIの例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 年間研修受講時間を1人あたり○時間以上にする
- 女性管理職比率を○年までに○%へ引き上げる
- 離職率を前年比○ポイント改善する
KPIは測定可能で期限が明確なものに設定することがポイントです。
3. 施策の実行と効果検証
KPIを設定したら、それを達成するための具体的な施策を実行に移します。研修プログラムの導入、評価制度の見直し、キャリア面談の実施など、KPIに紐づく施策を優先度の高い順から進めましょう。
施策の実行後は、定期的にデータを収集しモニタリングを行います。KPIに対する達成度を確認し、期待した効果が出ていない場合は原因を分析して施策を修正してください。PDCAサイクルを継続的に回すことが、人的資本経営の形骸化を防ぐうえで重要です。
人的資本経営の推進における課題
人的資本経営にはメリットがある一方で、推進にあたって3つほど課題も存在します。
1つ目は、情報開示そのものが目的化してしまうリスクです。投資家向けの体裁を整えることに注力するあまり、実態が伴わない「見せかけの開示」になってしまうケースがあります。
2つ目は、社内の理解を得る難しさです。人的資本経営は全社的な取り組みであるため、経営層だけでなく現場のマネージャーや社員の協力が不可欠です。しかし「なぜ今までのやり方を変える必要があるのか」という疑問や抵抗が生じることも珍しくはないでしょう。
3つ目は、効果が表れるまでに時間がかかる点です。人材育成や組織文化の変革は、短期間で成果が出るものではありません。
人的資本経営を推進する場合、経営層が中長期的な視点をもち、途中で施策を打ち切らず粘り強く継続する姿勢が重要です。
人的資本経営の参考になる企業事例
人的資本経営に取り組む企業の具体的な事例を紹介します。自社の取り組みを検討する際の参考にしてください。
【KDDI株式会社】
KDDIは「人財ファースト企業への変革」を経営戦略の中核に据え、人的資本経営を推進しています。
営業部門で約20年の業務経験をもつ人材を人事部門トップに登用。現場の実態を理解した人事責任者が経営層や各事業部門と密接に連携することで、経営戦略と人事戦略の一体的な推進を実現しています。
【株式会社サイバーエージェント】
サイバーエージェントは、創業した1998年当初から「経営資源の中で競争優位性が高いものは”人”である」と定め、社員の才能を開花させることに注力してきました。
経営チームに「次世代抜擢枠」を設け、専務8人のうち2人をこの枠に充当。また、子会社や関連会社の社長ポジションに新卒や若手社員を登用する「新卒社長」制度を通じて、20~30代の社長を52名輩出しています。
人的資本経営を推進するならプロ人材を活用してみませんか
ここまで解説してきたとおり、人的資本経営の推進には、経営戦略と人材戦略の連動、KPIの設計、情報開示体制の整備など、専門的な知見が求められます。しかし、これらをすべて自社のリソースだけでまかなうのは容易ではないでしょう。
社内で対応するのが難しい場合は、人的資本経営の知見をもつプロ人材の活用をぜひ検討してみてください。外部のプロ人材の知見を借りることで、自社にはないノウハウを取り入れながら、効率的に人的資本経営の取り組みを進められます。
coachee人事シェアでは、人事制度の設計やエンゲージメント改善、タレントマネジメントの構築など、さまざまな領域に精通したプロ人材を紹介しています。貴社の課題に合った人材を最短1日でマッチングできるため、スピーディーに支援を開始できる点も特徴です。
coacheeの支援事例
coachee人事シェアの支援事例を2つ紹介します。
人事制度の改善を支援した事例
東証プライム上場の物流グループ中核企業(従業員数約400名)において、グループ全体の経営ビジョンを実現するための人事制度改革を支援しました。
プロ人材がマネージャーとして参画し、中期人事戦略の策定や人事基幹システムの刷新を推進。その結果、人材配置の最適化と次世代経営者育成スキームの整備が進み、経営の持続性向上に貢献しています。
関連記事:物流グループ中核企業における人事制度改革と次世代人材育成体制の構築
社員のエンゲージメント改善を支援した事例
企業の成長フェーズにおいて退職者が発生し、エンゲージメントスコアの低下が見られた企業の支援を実施しました。
約30名の全従業員を対象に、役員から新入社員まで個別インタビューを実施。インタビューの設計から分析、レポート作成までを一貫して担当し、経営陣が認識していた課題の深刻さを可視化しました。
この取り組みにより、社員の定着率が向上し、エンゲージメントの改善を実現しております。
関連記事:企業成長フェーズにおけるエンゲージメント向上と制度改革支援
人的資本経営を導入して企業価値を高めよう
人的資本経営は、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、投資を通じて企業価値を高める経営のあり方です。
人的資本経営は短期間で成果が出るものではありません。経営戦略と人材戦略を連動させ、KPIを設定し、施策の実行と検証を粘り強く繰り返しましょう。
自社だけで推進するのが難しいと感じたら、coachee人事シェアなど、外部のプロ人材の知見を借りてみるのもおすすめです。