「企業としての進むべき方向性が曖昧で、現場でスピーディーな意思決定ができていない」
「採用活動で自社の魅力をうまく伝えられず、優秀な人材の獲得や定着に苦戦している」
「社員の主体性や生産性が上がらず、組織全体に一体感がないように感じる」
このように、組織の方向性の曖昧さや、採用・定着の停滞といった悩みを抱えていませんか?
実は、こうした組織課題の多くは、企業の核となる指針が不明確なことに起因しています。そこで重要になるのが、企業の羅針盤となる「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」です。
本記事では、MVVの3要素の意味から、企業にもたらす効果、失敗しない策定・再定義のプロセスまで解説します。
さらに、MVVが形骸化する原因と浸透を促す戦略も紹介します。本記事を最後まで読むことで、組織の軸を確立でき、優秀な人材の獲得と生産性の向上という成果につなげられるでしょう。
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは?構成要素と意味を解説

MVVとは「Mission(ミッション)」「Vision(ビジョン)」「Value(バリュー)」の頭文字をとった略語で、企業経営の核となる3つの要素を指します。
企業が何のために存在し、どこを目指し、そのためにどう行動すべきかを示す、組織の羅針盤としての役割を果たします。MVVを明確にすることで、社員やステークホルダーが共通の目的を持ち、企業全体の一体感が生まれます。
MVVは、企業活動において以下のような重要な場面で活用されます。
- 経営戦略を明確にするとき
- 組織文化を定めるとき
- 新規事業の方向性を検討するとき
また、MVVは採用ページで企業理念として掲載されることも多いです。
以下では、MVVの3要素を解説します。
1. ミッション(Mission):企業の存在意義・社会における使命
ミッションとは、企業が社会において果たすべき使命や存在意義のことです。
企業として永続的に追い求める理想を掲げ「社会に対してどのような貢献をするか」という立ち位置を明確にするものです。単なる目標達成にとどまらず、社員や顧客、そして社会に対して「何のためにこの会社があるのか」という存在理由を伝える役割を持っています。
2. ビジョン(Vision):企業が目指す将来の理想像
ビジョンとは「将来のありたい姿」のことです。「私たちは将来どうなっていたいのか(Where)」という中長期的な目的地を示します。
ミッションが「果たすべき永遠の使命」であるのに対し、ビジョンは「いつか到達する未来図」と位置づけられます。
3. バリュー(Value):理想を実現するための価値観・行動指針
バリューとは、ミッションやビジョンを実現するための「価値観」や「行動基準」のことです。「私たちはどのように行動すべきか(How)」を示し、日々の業務で判断に迷った際のよりどころとなるものです。
MVV策定が企業にもたらす2つの重要な効果

ここでは、MVVを策定・運用することで得られる2つの効果を解説します。
1. 組織の軸が定まり意思決定が迅速になる
MVVを明確にすることで、企業としての「共通の判断基準」ができるため、社員一人ひとりが迷うことなく、判断を下せるようになります。
上司の指示を仰がなくても、現場レベルで「これはビジョンに沿っているか」「バリューに反していないか」を判断できるため、意思決定のスピードが格段に上がるでしょう。
結果として、変化の激しい現代(VUCA時代)にも即応できる強い組織になり、業務の生産性も向上します。
2. 優秀な人材の獲得と定着につながる
MVVは、企業の存在意義や将来像を言語化しているため、応募者とのマッチング精度を高める効果があります。採用活動において、応募者は企業のMVVを見て「自身の価値観と合うか」「この会社で何を実現したいか」を判断できるからです。
企業と応募者の価値観が近ければ、入社後のミスマッチを防げるため、採用活動のコストパフォーマンス向上に有効です。また、価値観の近い人材を採用することで、入社後の定着率の向上も見込めます。
MVVの企業事例|coacheeの事例を紹介

MVVを経営の核として成功している企業の事例を参考にすることで、自社のMVV策定における解像度を高められます。
ここでは、弊社coacheeのMVVを紹介します。
| 要素 | MVV |
| ミッション | 【人とテクノロジーで、個と組織の「関係性」をリデザインする】 わたしたちは、変化へ適応するため、個と組織に伴走し関係性をリデザインすることで、価値を最大化し、これからの時代に即したあり方へと、支援していきます。 |
| ビジョン | 【個と組織の価値を最大化する関係共創企業になる】 私たちは、目的達成のためには、お客様、協力会社、教育機関、自治体等、様々なステークホルダーとの対話や協業を通して、個と組織の価値を最大化する関係共創企業を目指します。 |
| バリュー | 【未来志向】 私たちは、ワクワクするような未来を描き、「こうありたい」を追い求めます。 【挑戦】 私たちは、常に成長の機会と捉え、新たなチャレンジに果敢に立ち向かいます。チームとしてお互いを励まし合い、挑戦することでクリエイティブな解決策を見つけ出します。 【学習】 私たちは、変化に適応し、成長し続けるために、個人の成長と知識共有を重視します。学習の文化を育み、チームや外部のエキスパートとの協力を通じて、競争力を高め、社会に貢献します。 【適応】 私たちは、変化に前向きな意味を持つととらえ、様々な事象に興味を持ち、自らのキャリアを切り開いていきます。 |
coacheeのMVVの特徴は、3つの要素が「変化への適応」という軸で一貫したストーリーになっている点です。
まず、ミッション(使命)として、古い慣習にとらわれず「個人と組織の新しい関係性をつくる(リデザイン)」ことを掲げています。
その先に目指すビジョン(将来像)は、お客様や自治体を含む多様なステークホルダーと共に価値を最大化する「関係共創企業」となることです。
これは、私たち自身だけでなく、関わるすべての人々との対話と協業を通じて新しい価値を創出し、個と組織の価値を最大化するという未来像を示しています。
そして、この理想を実現するためのバリュー(行動指針)が「未来志向」「挑戦」「学習」「適応」です。 新しい関係性を築くには、私たち自身が変わり続ける必要があります。そのため、失敗を恐れずに挑戦し、学び続ける姿勢を社員共通の行動基準として定めています。
【失敗しない】MVVの作り方|策定・再定義のプロセス5ステップ

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定は、企業の未来を決める重要なプロジェクトです。失敗を防ぎ、納得感のあるMVVを作るための5つのステップを解説します。
1. 現状分析を行いMVVの目的とゴールを定める
策定を始める前に「なぜ今、MVVが必要なのか」「策定を通じて何を解決したいのか」という目的を明確にします。
「採用のミスマッチを減らしたい」「急拡大した組織のベクトルを合わせたい」など、解決したい課題によって、MVVで強調すべきポイントが変わるからです。
そのうえで、企業としての「人格(コーポレートペルソナ)」も定義しておきましょう。「誠実な専門家」なのか「親しみやすいパートナー」なのか、企業を擬人化した際のイメージを共有しておくと、後の言語化するプロセスで言葉選びのブレを防げます。
2.MVVを作る材料を集める
MVVを形骸化させず、組織に根付かせるためには、経営層の思いつきではなく、事実や体験に基づいた「材料」を集めることが重要です。
以下の3つの時間軸で整理すると、会社の独自性を再発見しやすくなります。
| 過去 | 創業時の想いや転機となった出来事など「会社らしさ」が現れたエピソードを集める。 |
| 現在 | 顧客に選ばれている理由、強みや弱み、働く文化や社風の特徴を把握する。 |
| 未来 | 今後どんな会社になりたいのか、中期的な目標や社会に与えたい影響を明確にする。 |
また、社内の視点だけでなく、顧客や採用候補者、あるいは退職者などの「外部の声」も集めましょう。客観的な意見を取り入れることで、自分たちでは気づけない本質的な価値が見えてきます。
3. MVVを言語化する
集めた材料をもとに、MVVの原型となる言葉を作ります。この段階では、綺麗な文章にしようとするよりも、要素を論理的に整理することが大切です。
「自分たちがやりたいこと(Will)」「できること(Can)」「社会から求められていること(Must)」のフレームワークなどを用いながら、ミッションとビジョンを形にしていきます。
言葉を選ぶ際は、誰にでも伝わるシンプルな表現を心がけてください。難解な言葉を避けることで、社員への浸透スピードが早くなります。
4. MVVを全社で磨き上げる
言語化した草案を全社員に向けて発表し、フィードバックをもらう場を設けます。ここで重要なのは社員が「自分たちの言葉だと感じられるか(自分事化できるか)」という視点です。
どれほど立派な文章でも、現場の実感とズレていては意味がありません。「この表現はしっくりこない」「もっとこういう言い方のほうが我々らしい」といった意見を取り入れ、修正を重ねることで、組織全体で共有できる理念へと磨き上げられます。
5. ミッション→ビジョン→バリューの順序で最終決定する
磨き上げた草案を最終決定し、正式に発表します。このとき、単に3つの言葉を並べるのではなく、それぞれのつながりを「ストーリー」として伝えることが重要です。
| 私たちの使命(ミッション)はこれである。だから、将来はこの姿(ビジョン)を目指す。そのために、日々の行動(バリュー)を大切にする |
このように、ミッションからバリューまでを一貫した物語として説明することで、社員の納得感が高まり、業務への落とし込みがスムーズになります。
MVVが形骸化する4つの原因

多くの企業でMVVが形骸化してしまうのは、明確な理由があります。形骸化を招く主な4つの原因を解説します。
1.会社の事業と掲げているMVVが連動していない
MVVが形骸化する原因は、掲げている理想(ビジョン)と、実際のビジネスモデル(現実)に距離がありすぎることです。
例えば、クライアントの要望を忠実にこなすことが求められる「受託開発」や「人材派遣」のようなビジネスを行っている企業が「世界を革新するテクノロジーカンパニーになる」といった壮大なビジョンを掲げているケースです。
現場の社員は「毎日の仕事は顧客のシステム保守やスタッフの手配なのに、どこが世界革新なのか?」と違和感を覚えます。日々の業務の延長線上にビジョンが見えないと、社員は「これは自分たちの言葉ではない」と感じ、MVVは単なるスローガンとして形骸化してしまいます。
2. 誰にでも当てはまる「抽象的な言葉」になっている
「社会を豊かにする」「お客様第一」といった、どこの企業でも通用するようなフレーズだけで構成されている場合も、形骸化しやすくなります。
耳触りの良い言葉を並べただけでは、自社ならではの独自性が伝わりません。社員が「自分たちのための言葉だ」と感じられないため、日々の判断基準として機能しなくなります。
3. 経営層やリーダーが現場で語っていない
MVVは一度発表して終わりではなく、経営層やリーダーが繰り返し語り続けることが必要です。
形骸化している組織の多くは、策定後の発信量が圧倒的に不足しています。日常の会議やトラブル対応などの意思決定の場面で、上司の口からMVVが出てこなければ、社員の意識が薄れていきます。
4. 人事評価や給与体系と連動していない
バリュー(行動指針)を体現しても評価されない、あるいは無視しても売上さえ作れば昇進できるという状態では、誰も理念を守らなくなります。
「理念を守る正直者が損をする」という構造になっていると、社員はMVVを軽視します。行動指針と人事評価がセットで運用されて初めて、組織の共通ルールとして機能するようになります。
MVVの浸透を促す4つの戦略

MVVが形骸化する原因(事業との乖離、抽象的すぎる内容、発信不足、評価との非連動)を踏まえ、組織への浸透を確実に進めるための4つの戦略を解説します。
1.事業フェーズに応じたMVVタイプを選定する
MVVを「自分事」として捉えてもらうには、自社のビジネスモデルと相性の良いタイプを選ぶことが重要です。
以下の表を参考に、事業の実態とリンクするMVVを設定しましょう。
| MVVのタイプ | 特徴 | 適した事業の例 |
| カンパニー/セルフドリブン型 | 「会社そのものの成長」や「組織のあり方」を掲げるタイプ。自分の仕事が会社の成長に直結するため、社員がイメージしやすい。 | 労働集約型のビジネス(広告、コンサルティング、人材サービスなど) |
| ビジョンドリブン型 | 「実現したい世界観」や「社会の変化」を掲げるタイプ。プロダクトが普及することでビジョンに近づく実感を持てる。 | メーカー、Webサービス開発企業など |
| ミッションドリブン型 | 「使命」を掲げるタイプ。日々の接客やサービス提供自体に価値がある場合に適している。 | 医療、福祉、飲食、サービス業など |
2. ストーリーテリングを活用しMVVを社内で語り続ける
MVVを浸透させるには、論理的な説明だけでなく、感情に訴える「ストーリーテリング」が効果的です。
綺麗なスローガンを唱えるだけでは、人の心は動きません。「なぜこのミッションが必要なのか」という創業者の原体験や、過去の失敗・成功エピソードとセットで語ることで、初めて社員の共感を得られます。
3.ミドルマネージャーがMVVの意味づけを行う
組織全体への浸透には、経営層と現場をつなぐミドルマネージャー(中間管理職)の働きがカギを握ります。
経営層が掲げるMVVは、どうしても抽象度が高くなりがちです。そこでマネージャーが「このタスクは、我々のミッションのここにつながっている」と、現場の業務レベルにまで落とし込んで、意味づけする必要があります。
日々のフィードバックの中にMVVの視点を取り入れることで、社員は行動イメージを持てるようになるでしょう。
4. 人事評価にMVVの行動基準を組み込む
MVVを浸透させるために、バリューに基づいた行動を評価項目に組み込み、給与や賞与に反映させる仕組みを作りましょう。
「理念の実践が報われる」という事実を作ることで、MVVは初めて組織の行動規範として定着します。
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MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは、企業の核となる重要な要素です。
ミッションで「存在意義」、ビジョンで「目指す未来」、バリューで「行動指針」を明確にすることで、組織の軸が定まります。これにより、迅速な意思決定や優秀な人材の確保といった大きな効果が期待できます。
しかし、MVVはただ掲げるだけでは効果を発揮しません。自社のフェーズに合った「策定」と、人事評価や採用活動に落とし込む「運用」がセットになって初めて、組織の力となります。
もし「自社に合うMVVの作り方がわからない」「策定しても現場や採用活動に活かせていない」といった課題をお持ちなら、人事のプロフェッショナルに相談してみてください。
「coachee人事シェア」には、MVVの策定・再定義から、制度設計、採用戦略への実装までを一貫して支援できる専門家が在籍しています。理念を言葉にするだけでなく、行動と成果につなげるための仕組みづくりをサポートします。
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