社員の規律違反に対して減給処分を検討しているものの、「法律的に問題ない金額はいくらなのか」「どのような手順で進めればよいのか」と悩んでいませんか?
減給処分は労働基準法で厳格にルールが定められており、適切な手順を踏まないと違法になり、処分が無効になるリスクがあります。
本記事では、減給処分の法律上の上限額や計算方法、認められる理由、違法にならないための適切な手順を解説します。リスクを回避するためのポイントも紹介しますので参考にしてください。
もし「自社だけで適切に処分を行えるか不安」「専門家のアドバイスが欲しい」とお考えなら、人事のプロに相談できるサービスの活用もおすすめです。
減給とは?

減給とは、企業の秩序を乱す行為や就業規則違反を行った社員に対して科される「懲戒処分」の1つです。社員が本来受け取るはずの賃金から、一定額を差し引く制裁措置のことを指します。
ただし、企業が自由に金額を決められるわけではなく、労働者の生活を守るために労働基準法によって上限額が厳しく制限されています。
減給処分には就業規則への明記と周知が必要
社員に対して減給処分を行うためには、あらかじめ就業規則に「どのような行為が減給の対象となるのか(処分の事由)」と「どのような処分を行うのか(処分の種類)」を明記しておく必要があります。
さらに、就業規則を作成するだけでなく、社員に周知されていなければ処分は有効と認められません。職場の見やすい場所に就業規則を掲示したり、社内ネットで社員が閲覧できる状態にしましょう。
関連記事:【図解あり】就業規則とは?労働基準法との関係性や作成方法、注意点などを解説
「降給」「減俸」「罰金」との違い
「減給」と似た言葉に「降給」「減俸」「罰金」がありますが、これらは意味や法的性質が異なります。それぞれの違いを正しく理解しておきましょう。
| 言葉の意味 | 減給との違い | |
|---|---|---|
| 降給 | 給与を下げること | 懲戒処分ではなく人事権の行使。役職の変更などを伴い、恒久的に給与を減額する。 |
| 減俸 | 給与の額を減らすこと | 減給と同じ意味合いで使われる |
| 罰金 | 制裁としてお金を支払わせること | 刑事罰の1つ。企業が社員に罰金を科すのは労働基準法第16条で禁止されている。 |
口頭で話す場合には意味を混同して使う人もいます。ただし、正式な書類(就業規則や辞令など)に記載する場合は、上記を参考に言葉を使い分けましょう。
労働基準法による減給処分の規定

減給処分を行う際の上限額は、労働基準法第91条によって明確に定められています。
| (制裁規定の制限) 第九十一条就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。 |
引用:労働基準法|e-Gov
つまり、以下のルールを同時に満たす必要があります。
- 1回の制裁事案に対する減給額が平均賃金1日分の半額を超えてはいけない
- 1支払い期において複数の制裁事案がある場合にも、当該賃金支払い期における賃金総額の10分の1を超えてはいけない
処分が違法なものにならないよう、慎重に検討しましょう。場合によっては、人事のプロ人材など専門家に相談するのもおすすめです。
減給の計算方法
減給額の上限となる「平均賃金」は、以下の計算式で算出します。
| 平均賃金=「過去3カ月間の賃金総額」÷「総日数」 |
ここで算出された金額の「半額」が、1回の減給処分の上限額です。なお、算出した金額が最低賃金法に基づく最低額を下回らないかどうかも確認が必要です。
計算ミスや認識違いによって上限を超えてしまうと違法となります。不安な場合は、人事のプロに相談し、適切に対応しましょう。
減給の期間
減給処分は、将来にわたって継続的に給与を下げる「降給」とは異なり、1回の処分として完結するものです。
例えば、3月の給与で減給処分を行った場合、その効力は3月の給与計算のみに適用されます。4月以降は、元の通常の給与額を支給する必要があります。長期にわたって減額を続けることは、「減給」としては認められません。
減給処分が認められる主な理由

減給は社員の経済的な不利益を伴う処分であるため、客観的に見て合理的な理由が必要です。一般的に減給処分が認められやすい理由には、以下のようなものがあります。
- 能力不足:成績が悪いだけでなく、指導しても改善が見込まれない
- 勤怠不良:正当な理由がなく遅刻や欠勤を繰り返す
- 協調性の欠如:業務命令への違反や、職場の秩序を著しく乱す行為を行う
注意点として、「成績が悪いから減給」はできません。成績が悪いだけでなく、指導しても改善の見込みがないことが、減給処分の要件として挙げられます。
成績が良くないことを理由に給与を継続して下げる場合は、人事権を活用して役職を下げるなど「降給」処分を検討しましょう。
減給処分の適切な手順

減給処分を適法に行うためには、下記のように、正しい手順を踏むことが不可欠です。
- 事実確認と客観的な証拠の確保
- 継続的な指導
- 就業規則の根拠確認
- 面談で弁明の機会を設ける
- 減給処分の通知書を渡す
それぞれ詳しく解説します。
事実確認と客観的な証拠の確保
まず、問題となっている行為が事実であるか確認しましょう。本人の言い分だけでなく、勤怠記録、メールの履歴、関係者の目撃証言など、客観的な証拠を集めることが重要です。証拠が不十分なまま処分を行うと、後々トラブルの原因となります。
継続的な指導
問題行為があったからといって、即座に減給処分を行うのはリスクが高いです。
まずは口頭や書面での注意、指導を行い、改善の機会を与えましょう。指導を行った事実は、メールやチャットツール、指導記録書などで履歴として保存しておくと「言った・言わない」といったトラブルの防止に役立ちます。
就業規則の根拠確認
確認した事実が、就業規則のどの懲戒事由に該当するのかを照らし合わせます。このとき、就業規則に根拠がない場合は、処分を行えません。
面談で弁明の機会を設ける
処分を決定する前に本人と面談を行い、弁明の機会を設けましょう。
本人の言い分を聞くことは、事実関係の誤認を防ぐだけでなく、手続きの公正さを担保するうえで重要です。就業規則によっては「処分決定前に弁明の機会を与える」と規定されている場合もあるため確認しましょう。
減給処分の通知書を渡す
最後に、確認した事実の内容や就業規則上の根拠、本人の弁明を総合的に判断し、処分を決定します。
処分が決まったら「減給処分通知書」を作成し、本人に交付します。通知書には、処分の理由、減給の金額、処分の実施日などを明確に記載しましょう。
減給処分が違法・無効になるケース

手順や内容に不備がある場合、減給処分自体が無効となり、未払い賃金の支払いや損害賠償を求められる訴訟リスクが生じます。下記の事項に該当していないか、減給を行う前に確認しましょう。
- 上限額を超過している
- 処分の重さが不当である
- 適切な手順を踏んでいない
- 就業規則に根拠がない
詳しく解説します。
上限額を超過している
労働基準法第91条で定められた「平均賃金の1日分の半額」または「賃金総額の10分の1」を超えて減給した場合、その超過分は違法となり無効です。
処分の重さが不当
違反行為の程度に比べて、減給処分が重すぎると判断される場合です。
過去の判例や社会通念に照らして、処分が相当でない(懲戒権の濫用)とみなされた場合、処分は無効となります。
適切な手順を踏んでいない
「十分な調査を行っていない」「本人に弁明の機会を与えていない」など、手続き上の不備がある場合も、処分が無効になる可能性が高いです。
就業規則に根拠がない
そもそも就業規則に減給に関する規定がない場合や、規定があっても社員に周知されていない場合は、処分を行う根拠がないとみなされます。
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関連記事:医療機器メーカーにおける人事制度改革と人材育成の体系化
減給に関するよくある質問

減給に関するよくある疑問をご紹介します。
- 減給処分に期間の定めはありますか?
- 減給処分は賞与(ボーナス)も対象にできますか?
- 遅刻や欠勤による「控除」は減給処分となる?
回答とあわせて詳しく解説します。
減給処分に期間の定めはありますか?
減給処分は、対象となる1つの事案に対して1回限り行うものです。
「3ヶ月間減給する」といったように期間を定めて継続的に減額することは、懲戒処分の「減給」としては認められません。そのような処分を行う場合は、人事評価に基づく「降格」や「降給」としての対応が必要です。
減給処分は賞与(ボーナス)も対象にできますか?
可能です。就業規則に規定があれば、賞与から減給を行うこともできます。ただし、その場合も労働基準法の制限が適用される点に注意が必要です。
遅刻や欠勤による「控除」は減給処分となる?
いいえ、なりません。遅刻や欠勤によって働かなかった時間分の給与を支払わないことは、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づく「給与控除」であり、懲戒処分としての「減給」とは区別されます。
したがって、給与控除については労働基準法第91条の上限額の制限を受けません。
減給処分には適切な対応が必要

減給処分は企業秩序を守るうえで必要な措置ですが、法律上のルールや適切な手順を遵守しなければなりません。
感情的な判断や誤った手続きを行ってしまうと、トラブルの原因となってしまいます。客観的な事実に基づき、冷静かつ適正に対応することが重要です。もし対応に迷うことがあれば、人事のプロの力を借りて、リスクのない適切な運用を目指しましょう。
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