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就業規則と労働基準法の関係|優先順位・記載事項と違反する7つのケースを解説

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「就業規則と労働基準法はどちらが優先されるのかがわからない」 「法律に違反しない就業規則の作り方を知りたい」 「一度作ったきりで、いまの法令に合っているか点検できていない」

人事・労務をご担当の方から、このようなお声をよく伺います。就業規則は作成して届け出れば終わりの書類ではありません。法令に反する条項は無効となり、その部分は法律の基準に置き換えられます。つまり「就業規則に書いてあるから大丈夫」は通用しません。

本記事では、就業規則と労働基準法の優先関係から、記載すべき事項、作成・変更の手順、不利益変更のルール、そして法違反となる7つのケースまでを、e-Gov法令検索と厚生労働省の一次情報にもとづいて整理します。読み終える頃には、自社の就業規則で点検すべき条項が具体的に見えているでしょう。

就業規則と労働基準法の位置づけ|4つのルールの優先順位

労働ルールの優先順位を示した図。法令(労基法92条)>労働協約(労組法16条)>就業規則(労契法12条)>労働契約の4層構造

就業規則は、一言で説明すると「職場のルールをまとめたもの」です。労働基準法第89条で定められており、常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成義務があります。まずは、企業と従業員を取り巻く4つのルールの関係から確認していきましょう。

そもそも就業規則とは?

就業規則とは、社員の給与や労働時間をはじめとする労働条件に加え、職場内のルールについて定めた規則です。職場のルールを就業規則にまとめることで、労使間でのトラブルを未然に防げたり、社員が安心して働きやすくなったりします。

就業規則がないと、何時に出勤して退社時間はいつなのか、給与はいくら・どのように支払われるのか、休日はいつなのかが不明瞭です。その結果、社員との間で認識の齟齬が発生すると労使間のトラブルに発展する恐れがあります。

就業規則に職場のルールを明文化することで、無用なトラブルを防ぐだけでなく、社員が安心して働ける環境を実現できるでしょう。

出典:厚生労働省「就業規則を作成しましょう」

労働基準法・労働協約・就業規則・労働契約の優先順位

就業規則や労働契約、労働基準法など、企業と従業員を取り巻くルールは複数存在します。それぞれの効力には優先順位があり、下位の規則や契約は上位の法律・取り決めに反することができません。

順位 ルール 根拠条文 下位ルールとの関係
1 法令(労働基準法など) 労働基準法第92条第1項 法令に反する労働協約・就業規則・労働契約は無効
2 労働協約 労働組合法第16条 労働協約に反する就業規則・労働契約は無効
3 就業規則 労働契約法第12条 就業規則の基準に達しない労働契約はその部分が無効
4 労働契約 上位3つに反しない範囲で有効

この優先関係を直接定めているのが労働基準法第92条です。

(法令及び労働協約との関係)第九十二条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。 ② 行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。

条文が示すとおり、法令や労働協約に反する内容が就業規則に定められている場合、その部分は無効と判断され、行政官庁から変更を命じられることもあります。「自社のルールだから自由に決められる」という前提は成り立ちません。

労働協約とは、労働組合と使用者(会社)の間で結ばれる労使間の約束事です。就業規則はもちろん、労働契約よりも優先されます。労働組合がある職場では、就業規則を作成する際に労働協約の有無や内容を必ず確認してください。

出典:e-Gov法令検索「労働基準法」

就業規則には「最低基準効」がある

見落とされやすいのが、就業規則が労働契約に対して持つ最低基準効です。労働契約法第12条は、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定めた労働契約は、その部分について無効とし、無効となった部分は就業規則の基準によると定めています。

つまり、個別の雇用契約書で就業規則より低い条件を約束しても、その約束は効力を持ちません。就業規則は「自社が守ると宣言した最低ライン」として機能するため、実態より高すぎる基準を書くと、そのまま義務として跳ね返ってきます。

出典:e-Gov法令検索「労働契約法」

労働基準法で定められた就業規則の作成義務|罰則とあわせて解説

一定の条件を満たした事業場は、就業規則を作成して所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。具体的な要件を見ていきましょう。

作成が必要な企業の要件

労働基準法第89条によると、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成して所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。

「常時」とは、一時的に10人未満になることがあっても、基本的に10人以上を雇用している状態を指します。アルバイトやパートタイム労働者、契約社員も人数に含まれます。一方で派遣社員は含まれません。雇用主はあくまで人材派遣会社だからです。

また就業規則は、原則として事業場(本社・支店・営業所など)単位で判断します。全社では30人でも、各事業場が10人未満であれば作成義務は生じません。

就業規則を作成・変更した場合は届出が必要

労働基準法第89条は、就業規則を作成した場合だけでなく、記載事項を変更した場合にも同様に届出が必要と定めています。事業場を管轄する労働基準監督署に「遅滞なく」届け出てください。

はじめて作成する場合はもちろん、内容を変更する場合も届出が必要である点に注意しましょう。

違反による罰則は30万円以下の罰金

次のいずれかに当てはまる場合、30万円以下の罰金を科されるリスクがあります。労働基準法第120条が根拠です。

  • 作成義務違反|常時10人以上を使用しているのに就業規則を作成していない場合が該当します。
  • 届出義務違反|就業規則を作成・変更したにもかかわらず、所轄の労働基準監督署へ届け出ていない場合が該当します。
  • 周知義務違反|労働基準法第106条にもとづく周知を行っていない場合が該当します。

就業規則に不備があると、労働基準監督署から是正勧告や行政指導を受けることもあります。労務全般の点検項目については「労務コンプライアンス15のチェックリスト」もあわせてご確認ください。

就業規則に記載すべき事項|絶対的・相対的・任意の3分類

就業規則に記載する事項は、次の3つに分類されます。分類を理解しておくと、自社に必要な条項を漏れなく洗い出せます。

  • 絶対的必要記載事項
  • 相対的必要記載事項
  • 任意記載事項

それぞれ詳しく解説します。

絶対的必要記載事項

就業規則に必ず記載しなければならない事項が絶対的必要記載事項です。次の3項目が該当します。

区分 記載内容・ポイント
労働時間関係(第89条第1号) ・始業・終業の時刻:具体的な時刻を明記する(例:9時〜18時)
・休憩時間:長さと与え方を記載(例:12時〜13時の60分)
・休日・休暇:日数と付与方法を明示(交替勤務制の場合は交替順序・期日も規定)
賃金関係(第89条第2号) ・賃金の決定・計算方法:学歴・職歴・技能などの基準を明確化
・支払い方法:現金払い・口座振込など具体的に記載
・締切日・支払日:給与計算の周期を明示
・昇給に関する事項:期間・条件・昇給率などを規定
退職関係(第89条第3号) ・退職事由:定年、死亡、契約期間満了、合意退職など
・解雇事由:使用者による一方的な意思表示による解雇を含めて記載
・退職手続き:届出期限や退職時の処理方法を明示

たとえば労働時間であれば、始業・終業の時刻、休憩時間、休日などを記載しなければなりません。賃金では、計算方法や支払い方法、昇給に関する事項が求められます。

退職では、定年退職のほか、社員の死亡や契約満了、使用者と労働者が合意して退職する場合に加え、使用者が一方的に解雇する場合も含まれます。

相対的必要記載事項

相対的必要記載事項とは、会社の制度として実施・運用する場合に記載しなければならない事項です。制度を設けないのであれば記載は不要ですが、設けるなら記載が義務になります。

区分 記載内容・ポイント
退職手当関係(第89条第3号の2) 適用される労働者の範囲/決定・計算・支払い方法/支払い時期(退職一時金、退職年金、中小企業退職金共済制度なども該当)
臨時の賃金等・最低賃金額関係(第4号) 賞与・手当など一時金制度がある場合に記載が必要。支給条件や支給時期を明記
費用負担関係(第5号) 食費・作業用品・社宅費・共済組合費など。労働者に負担させる場合は負担額や方法を明記
安全衛生関係(第6号) 安全衛生に関する制度の内容を記載
職業訓練関係(第7号) 訓練の種類・内容・期間・対象者など。特別な処遇がある場合はその内容も明記
災害補償・業務外の疾病扶助関係(第8号) 労働基準法や労働者災害補償保険法を超える補償を行う場合の規定。健康保険法や厚生年金保険法を補完する制度がある場合も対象
表彰・制裁関係(第9号) 表彰の基準・方法・時期/制裁の種類・程度・事由(譴責・減給・出勤停止など)。懲戒は就業規則への明記が前提条件
その他(第10号) 旅費、休職制度、福利厚生(勤労者財産形成促進制度など)

とくに注意したいのが第9号(表彰・制裁)と第10号(休職制度)です。懲戒処分は就業規則に種類と事由が明記されていなければ行えません。休職制度も法定外の制度であり、就業規則の定めがそのまま運用の根拠になります。減給処分の上限額と正しい手順は「減給とは?労働基準法が定める上限額と正しい手順5ステップ」で詳しく解説しています。

任意記載事項

任意記載事項とは、法令や労働協約に違反しない限り自由に定められる事項です。経営理念、服務規律の詳細、副業・兼業の取り扱いなどが該当します。

記載するかどうかは会社側で自由に決められますが、一度記載すれば最低基準効が働きます。運用できない理想論を書き込まないよう、慎重に検討しましょう。

\労務制度の整備と同時に、運用を担える人材の採用もご相談いただけます/ 就業規則は、条文を整えるだけでなく、日々の運用と定期的な点検を担える人がいて初めて機能します。「規程は整えたが実務が属人化している」「法改正のたびに対応が後手に回る」といった課題をお持ちでしたら、coachee Agent Proに問い合わせるからお気軽にご相談ください。

就業規則の作成手順4ステップ

就業規則は次の流れで作成します。順序を飛ばすと届出が受理されないため、順に進めてください。

ステップ1:原案を作成する

まずは会社側で原案を作成します。厚生労働省が公開している「モデル就業規則」を参考にするのがおすすめです。

ただしモデル就業規則はあくまで書き方の一例です。自社の実情に合わせて、労働時間制度、休職期間、懲戒事由などを調整しましょう。

出典:厚生労働省「モデル就業規則について」

ステップ2:労働者側から意見を聴取する

原案ができたら、労働基準監督署へ届け出る前に労働者側の意見を聴く必要があります。労働基準法第90条にもとづく手続きです。

意見を聴く相手は、従業員の過半数で組織する労働組合、それがない場合は従業員の過半数を代表する者です。労働組合がない場合は、投票や挙手など民主的な方法で選出する必要があり、企業側から指名することはできません。

聴取した意見は意見書としてまとめ、就業規則とあわせて労働基準監督署へ提出します。

ステップ3:労働基準監督署へ届出を行う

管轄の労働基準監督署へ、次の3点を提出します。

  • 就業規則
  • 就業規則(変更)届
  • 意見書

意見書に反対意見が記載されていても、不受理にはなりません。ただしトラブルを避けるためにも、提出前に労使間で話し合う場を持ちましょう。

ステップ4:就業規則を周知徹底する

届出が完了したら、内容を従業員へ周知します。労働基準法第106条は、就業規則を労働者に周知する義務を使用者に課しています。

事業場内の見やすい場所に備え付ける、書面を交付する、社内システムでいつでも閲覧できるようにするなど、実質的にアクセスできる状態を確保してください。周知を怠ると、第120条にもとづき30万円以下の罰金を科されるリスクがあります。

就業規則の変更手順3ステップ

就業規則は、作成時だけでなく変更する際にも踏むべき手順があります。

ステップ1:改定案を作成する

経営方針の転換や法改正に対応して変更する場合、まず「何を、どのように変えるか」を具体的に示した改定案を作成します。

この段階で、改定案が労働基準法に反しないこと、従業員の権利を不当に損なわないことを確認してください。なお、改定案を正式な規則とするために取締役会の決議が必須というわけではありません。

ステップ2:従業員の意見を聴取し意見書を添付する

変更時も、労働基準監督署への届出とともに意見書の添付が義務づけられています(労働基準法第90条第2項)。意見を聴く相手は作成時と同じです。

提出された意見が反対であっても、改定案に反映する義務はありません。ただし意見書の提出自体は必須です。代表者が意見書の提出に応じない場合は、「意見書不添付理由書」を用意して提出します。

ステップ3:書類を労働基準監督署へ提出する

必要書類は労働基準監督署によって多少異なりますが、一般的には次のとおりです。

  • 就業規則変更届
  • 意見書もしくは意見書不添付理由書
  • 就業規則(変更前・変更後)

意見書と就業規則は、それぞれ原本とコピーの2部ずつ提出するのが一般的です。賃金規程、退職金規程、36協定などの労使協定も、必要に応じて2部用意します。

届出が完了したら、作成時と同様に変更内容を従業員へ周知してください。賃金規程の見直しとあわせて手続きを整理したい方は「残業代の計算方法を徹底解説」も参考になるでしょう。

就業規則の不利益変更で問われる労働契約法第9条・第10条

労働契約法第10条で就業規則の不利益変更の合理性が判断される5つの要素(不利益の程度・変更の必要性・内容の相当性・交渉の状況・その他の事情)を示したカード図

従業員にとって不利な内容へ就業規則を変更することを「就業規則の不利益変更」と呼びます。実務で最も紛争になりやすい論点であり、根拠条文は労働基準法ではなく労働契約法である点に注意してください。

原則は労働者との個別合意

労働契約法第9条は「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と定めています。原則として、不利益を受ける従業員全員との個別合意が必要です。

合理性が認められる5つの判断要素

例外を定めるのが労働契約法第10条です。変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ変更が合理的であるときは、個別合意がなくても労働条件が変更後の内容になります。合理性は次の要素を総合的に考慮して判断されます。

判断要素 実務での確認ポイント
労働者の受ける不利益の程度 賃金・退職金など重要な労働条件かどうか。減額幅は何%か
労働条件の変更の必要性 経営上の必要性を数値で説明できるか
変更後の就業規則の内容の相当性 代償措置や経過措置を設けているか
労働組合等との交渉の状況 説明会・交渉の回数と記録が残っているか
その他の事情 同業他社や社会一般の状況と比べて妥当か

賃金・退職金といった重要な労働条件を不利益に変更する場合、裁判例では「高度の必要性に基づいた合理的な内容」であることが求められます。経過措置や代償措置を設けずに一律削減する変更は、無効と判断されるリスクが高いでしょう。

周知がなければ効力は生じない

第10条は「変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ」と定めています。合理性があっても、周知していなければ変更の効力は生じません。不利益変更を行う場合は、周知の方法と日付を記録に残しておいてください。

就業規則が労働基準法に違反する7つのケース

就業規則が労働基準法などに違反する7つのケース(休憩・有給・産休・解雇事由・休日・定年・賃金控除)と根拠条文を示したカード図

就業規則は企業が独自に定める職場のルールですが、その内容が法令に反していれば、当該条項は無効と判断されます。ここでは実務で見つかりやすい7つのケースを挙げます。

1. 休憩時間が法定より短い

労働基準法第34条は、6時間を超える労働には45分以上、8時間を超える労働には1時間以上の休憩を与えることを義務づけています。「6時間勤務で15分の休憩」といった規定は違法です。

休憩時間中に電話番を命じるなど、実質的に業務から解放していない運用も、休憩を与えていないと判断される恐れがあります。

2. 有給休暇の日数が法定より少ない

労働基準法第39条は、6か月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に年10日以上の年次有給休暇を与えると定めています。この基準を下回る規定は無効です。

さらに、年10日以上付与される労働者には年5日の時季指定義務があります。取得を制限したり、企業側が一方的に取得日を決定したりする規定も労働者の権利を侵害する恐れがあります。

3. 妊娠・産後の休暇が取得できない

労働基準法第65条は、産前6週間(多胎妊娠は14週間)の請求による休業と、産後8週間の就業禁止を定めています。これらを制限する規定は違法です。

企業独自の支援制度(産休中の賃金補助など)を上乗せすることは可能ですが、あくまで法定基準を下回らないことが前提になります。

4. 解雇事由が不明確

解雇事由の記載は絶対的必要記載事項です。記載がなければ、そもそも解雇の根拠を欠きます。

客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない解雇は無効です(労働契約法第16条)。また、業務上の傷病による休業期間とその後30日間、産前産後の休業期間とその後30日間は解雇が禁止されています(労働基準法第19条)。解雇する場合は30日前の予告または30日分以上の平均賃金の支払いが必要です(第20条)。

試用期間中の解雇の可否については「試用期間に解雇は可能?不当解雇になるケース」で詳しく解説しています。

5. 休日が週1日を下回る

労働基準法第35条は、毎週少なくとも1回、または4週間を通じ4日以上の休日を与えることを義務づけています。「隔週で完全週休1日」といった規定は、4週4日を満たしていなければ違法です。

なお、変形休日制(4週4日制)を採用する場合は、起算日を就業規則で定める必要があります。年間休日の設計については「年間平均休日は112日!採用でアピールポイントとなる目安」も参考になるでしょう。

6. 定年が60歳を下回る

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)第8条は、定年を定める場合に60歳を下回ることを禁じています。

さらに同法第9条は、65歳未満の定年を定めている事業主に対し、定年の引上げ・継続雇用制度の導入・定年の定めの廃止のいずれかの措置を義務づけています。2013年改正時の経過措置は2025年3月末で終了しており、現在は労使協定による対象者の限定が認められません。定年後再雇用の基準を就業規則に残している企業は、条項の点検が必要です。

出典:e-Gov法令検索「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」

7. 賃金の控除が法定の範囲を超えている

労働基準法第24条は、賃金を通貨で、直接、全額を、毎月1回以上、一定の期日に支払うことを定めています。法令に定めのない控除(親睦会費、制服代など)を行うには、労使協定の締結が必要です。

また、制裁として減給を定める場合、1回の額は平均賃金1日分の半額を超えてはならず、総額は一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはなりません(労働基準法第91条)。この上限を超える減給規定は無効です。

労務管理の全体像を整理したい方は「労務管理とは?仕事内容や勤怠管理・人事管理との違い」もあわせてご覧ください。

就業規則を作成・変更する際に押さえておくべき5つのポイント

条文の正確さに加えて、運用面でも押さえるべき点があります。

1. 就業規則の対象となる労働者を明確にする

基本的には、その事業場で働くすべての労働者に適用できるよう定義します。ただしアルバイト・パートなど、一部の労働者に別の就業規則を定めることも可能です。

この場合、本則で「特定の労働者は別に定める規則の適用を受ける」と明記し、除外した労働者の規則を別途整備していることを明確にしてください。除外の記載がないと、正社員向けの条件がパートにも適用されると解釈される恐れがあります。

2. 労働基準法をはじめとする法律を遵守する

就業規則は労働基準法だけでなく、労働契約法、パートタイム・有期雇用労働法、育児介護休業法、高年齢者雇用安定法など複数の法令に適合させる必要があります。労働協約がある場合はその内容にも従わなければなりません。

法令または労働協約に違反する条項は無効と判断され、行政官庁から変更を命じられる場合もあります。

3. 労働者の代表から意見を聴く

作成・変更のいずれでも、労働者の代表から意見を聴取する手続きが必須です(労働基準法第90条)。企業側が一方的に作成・変更することはできません。

代表者の選出方法まで含めて記録を残しておくと、後日の紛争で手続きの適正さを示せます。

4. 厚生労働省の「モデル就業規則」を確認する

厚生労働省は、就業規則を作成・変更する事業主向けに「モデル就業規則」を公開しています。条文例だけでなく解説も付いているため、はじめて作成する場合は必ず目を通しておきたい資料です。

ただし法改正のたびに改訂されるため、社内で保管している旧版ではなく、必ず最新版を確認してください。

5. 専門家への相談も検討する

社会保険労務士や弁護士に確認を依頼すれば、法令適合性のリスクを大きく下げられます。とくに不利益変更を伴う改定や、懲戒規定の見直しは、専門家のレビューを受けてから施行するのが安全でしょう。

就業規則を作成する3つのメリット

罰則の回避以外にも、就業規則を整えるメリットがあります。

労使間のトラブル防止に役立つ

労働時間や給与、休日の取り扱いが明文化されていれば、認識の齟齬によるトラブルを減らせます。仮にトラブルが発生しても、就業規則に沿って対応すれば解決の見通しを立てやすいでしょう。

業務命令や懲戒処分の根拠になる

出張・残業・休日出勤といった業務命令や、規律違反に対する懲戒処分は、就業規則に根拠がなければ行えません。とくに懲戒は、種類と事由を就業規則に明記していることが適法性の前提条件です。

助成金の支給要件を満たせる

就業規則の整備・改訂が支給要件の1つとなっている助成金があります。代表的な例は次のとおりです。

  • 働き方改革推進支援助成金
  • 65歳超雇用推進助成金
  • キャリアアップ助成金

制度を導入しても就業規則に反映していなければ支給対象外となるため、申請前に条項を確認してください。

就業規則の点検チェックリスト10項目

最後に、既存の就業規則を点検するためのチェックリストを示します。年に一度、法改正の施行時期に合わせて確認する運用をおすすめします。

# 点検項目 確認の観点 根拠条文
1 適用範囲が明確か 正社員・パート・有期の別規則がある場合、本則に除外規定があるか
2 始業終業時刻・休憩が明記されているか 交替制の場合は交替順序・期日まで記載しているか 労基法第89条第1号
3 休憩時間が法定を満たすか 6時間超で45分以上、8時間超で1時間以上 労基法第34条
4 休日が週1回または4週4日以上か 変形休日制なら起算日を明記しているか 労基法第35条
5 年次有給休暇の付与日数が法定以上か 年5日の時季指定義務に対応した条項があるか 労基法第39条
6 賃金の決定・計算・支払い方法が具体的か 法定外控除には労使協定を締結しているか 労基法第24条・第89条第2号
7 退職・解雇の事由が具体的に列挙されているか 解雇予告と解雇制限の記載があるか 労基法第19条・第20条・第89条第3号
8 懲戒の種類・事由・程度が明記されているか 減給が平均賃金1日分の半額・総額10分の1以内か 労基法第91条・第89条第9号
9 定年が60歳以上で、65歳までの雇用確保措置があるか 労使協定による対象者限定が残っていないか 高年法第8条・第9条
10 最新版が周知されているか 掲示・書面交付・社内システムのいずれかで常時閲覧できるか 労基法第106条

とくに9番は見落とされやすい項目です。2013年改正の経過措置終了により、継続雇用の対象者を労使協定の基準で限定する条項は現在無効となっています。古い就業規則をそのまま使っている企業は、真っ先に確認してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 従業員が10人未満でも就業規則は必要ですか?

法律上の作成義務はありません。ただし、懲戒処分や休職制度は就業規則に根拠がなければ運用できず、助成金の支給要件を満たせない場合もあります。10人未満でも作成しておくことをおすすめします。

Q2. 事業場ごとに別々の就業規則を作ってもよいですか?

問題ありません。就業規則は事業場単位で判断するため、支店ごとに異なる規則を定めることも可能です。ただし各事業場で作成・意見聴取・届出の手続きが必要になります。本社一括届出の制度もありますが、事業場ごとの意見書は依然として必要です。

Q3. 就業規則と雇用契約書で条件が違う場合はどちらが優先されますか?

労働者に有利なほうが適用されます。労働契約法第12条により、就業規則の基準に達しない労働契約はその部分が無効となり、就業規則の基準に置き換えられます。一方、就業規則より有利な個別合意は有効です。

Q4. 就業規則を届け出ていなければ効力はありませんか?

届出は行政上の義務であり、届出をしていないことだけを理由に就業規則が無効になるわけではありません。ただし労働者への周知は効力発生の要件と解されているため、周知していない就業規則は労働契約の内容になりません。

Q5. パートタイマー用の就業規則も意見聴取が必要ですか?

必要です。労働基準法第90条の意見聴取は、事業場の全労働者の過半数代表者に対して行います。あわせてパートタイム・有期雇用労働法第7条により、パート・有期雇用労働者に係る事項については、当該労働者の過半数を代表する者の意見を聴くよう努めることとされています。

Q6. 法改正があったら就業規則も必ず変更しなければなりませんか?

法令が就業規則に優先するため、改正内容に反する条項は自動的に無効となり、法令の基準が適用されます。したがって改正の翌日から直ちに違法状態になるわけではありません。ただし、実態と異なる条項を放置すると現場が旧ルールで運用してしまい、労使トラブルの原因になります。年1回の定期点検に加え、労働時間・休暇・高年齢者雇用に関する改正があった年は、施行日までに改定を済ませることをおすすめします。

Q7. 就業規則の別規程(賃金規程・育児介護休業規程)も届出が必要ですか?

必要です。賃金規程や退職金規程、育児介護休業規程などは、就業規則の一部として扱われます。本則から分離して作成している場合でも、作成・変更のたびに意見聴取と届出の対象になります。本則に「賃金に関する事項は別に定める賃金規程による」と委任規定を置き、規程本体もあわせて提出してください。

まとめ|就業規則は「法令適合・手続き・周知」の3点で点検する

就業規則は、労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場で作成・届出が義務づけられている文書です。届出を怠れば是正勧告や30万円以下の罰金の対象となります。

点検の観点は次の3つです。

  • 法令適合|休憩・有給・休日・定年・減給の上限など、法定基準を下回る条項が残っていないか。
  • 手続き|作成・変更のたびに意見聴取と届出を行い、記録を残しているか。
  • 周知|従業員が実質的にいつでも閲覧できる状態になっているか。

条項を整えたあとに残るのは、法改正への追随と日々の運用です。制度と運用体制はセットで考える必要があるでしょう。

\労務制度を「回せる」体制づくりを、人材採用の面から支援します/ 就業規則の整備は、条文を作った時点では半分しか終わっていません。次のような課題をお持ちでしたら、ぜひ一度ご相談ください。

  • 就業規則の整備から法改正対応まで担える労務責任者を採用したい
  • 1人労務の属人化を解消し、チームで回せる体制にしたい
  • 求人を出しても、労務実務の経験者からの応募が集まらない

coachee Agent Proは、IT/DX・エグゼクティブ・HR領域に特化した人材紹介サービスです。企業と求職者の双方を同じリクルーティングコーチが担当する両面型支援により、スキルだけでなく人柄・カルチャーフィットまで見極めたご提案を行います。労務体制の強化をお考えの企業様は、coachee Agent Proに問い合わせるからお気軽にお問い合わせください。


監修:高橋 秀誓(たかはし ひでちか) coachee株式会社 代表取締役/情報管理責任者。国家資格キャリアコンサルタント、プロティアン認定ファシリテーター、人的資本開示国際規格 ISO30414 リードコンサルタント。有料職業紹介免許 14-ユ-302056。人材業界歴約10年、キャリア相談実績3,500人以上。

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