「優秀な非正規社員を正社員に登用できれば、現場の戦力がさらに安定しそうだ」
「そろそろ自社でも、正社員登用の仕組みを整えるべき段階かもしれない」
このように、非正規社員の活躍をきっかけに、正社員への転換を前向きに検討し始めている企業担当者の方もいるでしょう。
しかし、いざ具体的に動こうとすると、手順やコスト面、あるいは法的な注意点など、事前に確認しておくべき事項は少なくありません。
そこで本記事では、正社員登用制度とは何かやメリット・デメリット、具体的な運用フローを5つのステップで解説します。トラブル回避策や助成金の活用ポイントも紹介するため、リスクを抑えながら効果的に制度を運用できるようになります。
本記事を読んで、自社に最適な正社員登用制度を構築し、人材の定着と組織の成長につなげましょう。
もし、正社員登用制度設計の細かなルール策定や、自社に合った評価基準の作り方でアドバイスが必要な場合は、人事シェアサービス「coachee人事シェア」にご相談ください。
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正社員登用制度とは、契約・派遣社員やパート、アルバイトなどの非正規雇用者を正社員に転換する制度

正社員登用制度とは、契約社員やパート、アルバイトといった非正規雇用者を、正規雇用である正社員に転換する社内制度です。
法的な義務はなく、企業が任意で定めます。そのため、勤続年数や評価基準、試験内容は企業ごとに独自に設計されています。
ここでは、制度を正しく理解するために必要なポイントを解説します。
※なお、派遣社員を登用する場合は、派遣元企業との調整が必要となる点に留意してください。
正社員登用制度と無期転換ルールの違い
正社員登用制度とよく混同される制度に「無期転換ルール」がありますが、両者は目的や待遇において明確な違いがあります。
| 項目 | 無期転換ルール | 正社員登用制度 |
| 主な目的 | 雇用の安定(雇い止めの解消) | 人材活用、キャリアアップ |
| 根拠 | 労働契約法による権利 | 会社の就業規則・人事制度 |
| 適用の条件 | 有期労働契約が5年を超えて更新された場合、労働者の申し込みにより適用 | 会社の基準(試験・推薦など)をクリアした場合 |
| 雇用期間 | 無期(定年まで) | 無期(定年まで) |
| 待遇・給与 | 原則、変更なし | 正社員待遇に変更(昇給・賞与あり) |
| 業務内容 | そのまま継続することが多い | 責任や範囲が広がる可能性がある |
企業側としては、これらを混同せずに運用することが、労使トラブルを防ぐために重要です。
特に、従業員が「無期転換すれば正社員になれる」と誤解しないよう、就業規則で転換後の労働条件を明確に規定しておく必要があります。
参考:厚生労働省「無期転換ルールについて」
参考:厚生労働省「無期転換ルールのよくある質問」
正社員登用制度の導入率と実態
正社員登用制度を導入している企業の割合は増加傾向です。厚生労働省の調査によると、正社員以外の労働者から正社員への「登用制度あり」とする企業は、調査産業計で78%に達しました。
しかし、制度はあっても運用面では課題が残っています。同調査では、制度導入企業の約半数が、過去1年間に登用実績がないと回答しており、主な理由として「応募がなかった」点が挙げられています。
このデータから、制度を作るだけでなく、従業員への周知や意欲を高める働きかけが不足している実態が読み取れます。人手不足が深刻化する中、制度を形骸化させず、積極的に運用していく姿勢が求められます。
出典:厚生労働省「労働経済動向調査(令和7年2月)」
正社員登用の一般的な条件・基準
正社員登用の基準には法的な定めがないため、各社が独自に設定しています。
一般的には、以下のような条件を設ける企業が多い傾向です。
- 一定期間の勤続
- 良好な勤務態度や業績
- 上司からの推薦
- 登用試験に合格
また、本人の希望だけでなく「正社員として活躍できる実力がある」と評価された際に、会社側から打診するケースもあります。
企業が正社員登用制度を活用する3つのメリット

正社員登用制度を導入することは、企業の人材戦略においてメリットをもたらします。
1.採用成功率と定着率の向上が見込める
正社員登用制度では、自社の業務内容や社風をすでに熟知している人材を登用するため、外部採用と比較して成功率が高い傾向です。
一般的な中途採用では、面接だけでスキルの見極めや価値観のマッチングを行う必要があり、入社後のミスマッチが起こるリスクがあります。一方、正社員登用制度であれば、実際の働きぶりを確認した上で選考できるため「自社に合う人材」を正社員として確保しやすくなるでしょう。
また、非正規社員にとって「努力次第で正社員になれる」という明確なキャリアパスは、日々のモチベーション維持に直結します。将来の見通しが立つことで、優秀な人材が他社へ流出するのを防ぎ、長期的な定着率の改善も期待できるでしょう。
なお、若手社員や新入社員の定着率をさらに高める具体的な施策については、以下の記事も併せて参考にしてください。
新入社員の離職を防止するには?具体的な施策やおすすめサービスなどを紹介
2.採用・教育コストの削減が期待できる
正社員登用制度を活用すれば、外部から新しい人材を募集する際に発生する「採用費」と、入社後の「教育費」を大幅に抑制できます。
一般的に、人材紹介会社経由で採用を行うと、理論年収の30〜35%程度の手数料が発生するため、正社員1名の採用だけで100万円を超える出費となるケースも珍しくありません。一方で正社員登用であれば、求人広告費や紹介手数料といった直接的なコストをかけることなく、自社に最適な人材を確保できる点が魅力です。
加えて、教育にかかる時間的なコストも削減できます。登用対象者はすでに自社の業務フローや企業文化、独自のルールを深く理解しているため、中途採用者であれば数ヶ月を要する「オンボーディング(早期に戦力化するための施策)」の手間を最小限に抑えられます。
このように、募集から研修までの工程をショートカットできるため、現場の教育負担を増やすことなく、即戦力としてスムーズに体制を強化できるでしょう。
なお、教育コストをより最適化し、登用した人材のパフォーマンスを最大化させるための手法については、以下の成功事例も参考にしてください。
【保存版】オンボーディングの成功事例10選!施策のポイントや実施の流れを解説
3.助成金を活用できる
「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」などを活用すると、国からの支援金を受け取れる場合があります。
一定の要件を満たして有期雇用労働者を正規雇用労働者に転換した場合(年度や対象者により変動)、1人あたり最大80万円が支給されます。支給された資金は、正社員化に伴う社会保険料の増加分や、賃金アップの原資として有効活用できる点が魅力です。
ただし、注意点として、実際に登用を行う前日までに「キャリアアップ計画」を作成し、労働局等へ提出しておかなければなりません。
参考:厚生労働省「キャリアアップ助成金」
正社員登用制度活用前に知るべき3つのデメリット

正社員登用はメリットが大きい反面、企業側には「コスト」と「責任」の増加という負担も発生します。
制度導入後に「こんなはずではなかった」と後悔しないよう、以下の3つのデメリットをあらかじめ理解し、許容できるかシミュレーションしておきましょう。
- 固定費と人件費の増加
- 解雇規制による法的リスクの増加
- 管理・評価コストの発生
正社員登用では、時給制などから月給制への移行に加え、社会保険料の会社負担分、賞与、退職金の積み立てなどが発生します。助成金などの一時金を受け取ったとしても、長期的には固定費の負担が続くことになるため、収支計画を慎重に立てる必要があります。
また、有期雇用(契約社員・パート)とは異なり、正社員は労働契約法による解雇規制が強く適用されます。本人の能力不足を理由とした雇用契約の解消は極めて難しくなるため、登用前の見極めがより重要です。
そのほかにも、正社員用の人事評価制度への組み込みや、キャリア面談、育成計画の策定など、マネジメント層の工数が発生します。現場任せにすると運用が回らなくなるため、人事部によるサポート体制が不可欠です。
正社員登用の一般的な4つのパターン

ここでは、企業によって異なる登用のきっかけや仕組みについて、代表的な4つのパターンを紹介します。
自社の組織風土や目的に合わせて、最適な方式を検討してください。
| パターン | 特徴 | メリット | 注意点 |
| 1. 社内公募制 | 会社が募集要項を提示し、希望者が自ら応募する形式。 | 「意欲の高い層」を採用できる。 | 選考に漏れた従業員のモチベーション低下に対するフォローが必要。 |
| 2. 上司推薦制 | 現場の管理職や店長が、勤務態度や能力を評価して人事に推薦する形式。 | 実務能力のミスマッチが起きにくい。 | 上司の主観が入りやすく、不公平感を生むリスクがある。 |
| 3. 紹介予定派遣 | 最長6ヶ月の派遣期間後、双方合意で直接雇用(正社員)に切り替わる仕組み。 | 実務適性を見極めてから採用できるため、リスクヘッジしやすい。 | 派遣会社への紹介手数料が発生する。 |
| 4. 自動登用 | 「勤続3年以上で登用」など、一定期間勤務し評価基準を満たしていれば登用。 | 長期勤続のインセンティブとして機能する。 | 能力評価が甘くなると、制度が形骸化しやすい。 |
メリット・デメリットを比較したうえで、自社に合った方法を選びましょう。
参考:厚生労働省「紹介予定派遣とは」
【5ステップ】正社員登用制度運用の流れ

ここでは、正社員登用制度を運用する際の流れと、各段階でやるべきことを解説します。
1.制度の周知と募集をかける
まずは、就業規則や社内掲示板などを活用し、登用制度の条件やスケジュールを全社にアナウンスします。
この際、選考基準を明確に示し、安易な期待を持たせないようにすることが重要です。また、対象となる従業員に対して説明会や個別面談を実施し、本人の意向を確認するステップも欠かせません。
2.応募受付・書類選考を実施する
応募段階では、志望動機書や履歴書などの提出を求め、本気度を確認します。
単に「安定したい」という理由だけでなく「会社にどう貢献するか」という視点を持っているかを書類で見極めることが大切です。また、上司からの推薦書(評価シート)を併せて提出させ、多角的な視点で評価を行うケースも見られます。
3.筆記試験・適性検査を実施する
必要に応じて、SPIなどの適性検査や、業務知識を問う筆記試験、小論文などを実施しましょう。
一般的な基礎学力だけでなく、正社員として求められる論理的思考力や、企業理念への共感度を測ることが目的です。
4.登用面接を実施する
役員や人事責任者による面接を実施し、正社員としての適性や将来のキャリアビジョンを確認します。
現在の業務内容の確認にとどまらず、将来任せたい役割や責任について話し合い、双方の合意形成を図りましょう。また、不合格となった場合でも、本人の成長につながるフィードバックを準備し、モチベーション低下を防ぐ配慮が求められます。
5.契約締結と辞令交付を行う
合格者に対しては、新しい労働条件通知書を提示し、合意を得た上で署名を行います。
給与体系や勤務時間、転勤の有無などの変更点を説明し、認識の相違によるトラブルを防ぎましょう。
労働条件通知書を取り交わした後、辞令交付やオリエンテーションを行い、受け入れが完了します。
【失敗パターン付】正社員登用で起こるトラブル回避策

正社員登用は組織にとってプラスになる一方で、運用を誤ると労務トラブルの原因にもなります。
よくある失敗パターンを踏まえ、以下の4つの回避策を講じることが重要です。
トラブル回避策①就業規則に正社員登用の実施を明記する
上司による「頑張れば正社員にする」といった口約束は、後々のトラブルの原因となりがちです。
これを防ぐためには、就業規則や公募要項に「登用には選考があること(必ずしも全員が登用されるわけではないこと)」を明記し、周知徹底してください。
また、就業規則への明記は「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」を受給する必須条件でもあります。以下の要件を満たす規定を作成すると、助成金申請をスムーズにできます。
【助成金受給に必須となる3つの記載項目】
- 転換対象者の要件:「勤続○年以上の者」「本人が希望する場合」などの基準を設ける
- 転換の手続き:「面接試験や筆記試験を行う」と明記する
- 転換の時期:「原則毎月1日とする」など、時期を明示する
トラブルを防ぐ就業規則の書き方や、労働基準法との関係性については、以下の記事で詳しく解説しています。
【図解あり】就業規則と労働基準法の関係性|作成方法や注意点などを解説
参考:厚生労働省「キャリアアップ助成金」
トラブル回避策②不公平感を防ぐため、明確な評価基準を作成する
評価者の主観や好みによって合否が決まると、選ばれなかった従業員の不満が募り、組織全体のモチベーション低下を招きます。
一方で、現時点でのスキルだけで判断すると、登用後に「正社員という立場に甘んじてしまい、自ら動こうとしない」といった意欲の停滞を招く恐れがあります。
これらを防ぐため、以下2つの視点を取り入れた客観的な評価プロセスを導入し、合否の根拠を明確にしましょう。
| 評価の視点・手法 | 具体的な実施内容 |
| ①キャリア自律度の確認 | ・「言われた仕事をこなす」だけでなく、自らのキャリアを主体的に考えているかを確認する。 ・面接で「なぜ正社員になりたいのか」を問い、安定だけが目的の人材を除外する。 |
| ②行動評価シートの導入 | ・「やる気がある」といった抽象論ではなく、具体的な行動事実に基づいて評価する。 ・「業務改善の提案数」や「他部署との連携実績」など、正社員に求められる行動を項目化し、公平な判定を行う。 |
トラブル回避策③登用後の離職を防ぐため、手取り額の変化を含む詳細な給与シミュレーションを行う
正社員への転換に伴い、社会保険料の負担増や給与体系の変更が発生するため、一時的に「月々の手取り額」が減少する場合があります。このギャップを事前に解消しておかなければ、登用直後の不満から早期離職を招く恐れがあるでしょう。
したがって、登用契約を結ぶ前に、賞与や将来的な昇給を含めた年収ベースでのメリットを提示し、本人が納得した上での登用を進めましょう。
また、正社員登用した場合、既存の正社員と同等の業務を行うことが前提となりますが、求められる業務レベルが急激に上がると本人の負担になる可能性もあります。
同一労働同一賃金の観点からも、既存正社員との業務バランスと給与の整合性を検討する必要があります。
トラブル回避策④コスト増による経営圧迫を防ぐため、助成金ありきではなく長期的な収支で判断する
キャリアアップ助成金は一時的な支援であり、正社員登用に伴う社会保険や賞与などの固定費増加は長期的に継続します。
目先の助成金受給を目的にするのではなく、その人材が長期的に企業の利益に貢献できるかという視点で登用を判断しましょう。
正社員登用を成功させるならcoachee人事シェア

正社員登用とは、契約社員やパートなどの非正規雇用者を正規雇用に転換する制度です。企業にとっては採用ミスマッチの防止や定着率向上といったメリットがあります。
運用にあたっては、賃金シミュレーションや面接フローの整備を行い、労使双方にとって納得感のある仕組みを整えることが重要です。
ただし、公平性を保ちつつ助成金要件も満たす制度を、社内のリソースだけで構築するのは容易ではありません。
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