「人材育成が大事なのは分かるが、実際に何をやればいいのか具体的なイメージが湧かない」
「育成計画を書けと言われたが、他社が何をしているのか分からない」
「研修を実施しても、現場の行動が変わった手応えがない」
育成を任された人事担当者の方は、このような壁にぶつかることが多いのではないでしょうか。
人材育成は、抽象的な理念を掲げるだけでは動きません。「誰に・何を・どの手法で」という具体例まで落とし込んで初めて、現場が実行できる計画になります。
本記事では、人材育成の具体例を「手法別の実践例」と「企業の成功事例」の2つの角度から10個紹介します。あわせて階層別の育成例や、公的調査から見た他社の実施状況も整理しました。自社の育成計画にそのまま転用できるヒントが得られるでしょう。
この記事でわかること
- 人材育成の代表的な手法と、その具体的な実践例
- 階層別(新入社員・中堅・管理職)の育成の具体例
- 実在企業の成功事例と、失敗しやすい落とし穴
人材育成の具体例を考える前に|押さえるべき前提

具体例に入る前に、人材育成の全体像を押さえておきましょう。企業が行う育成は、大きく3つに分類されます。
- OJT(On the Job Training)|実務を通じて上司や先輩が指導する育成。実践力が身につきやすい一方、指導者の力量に左右されます
- OFF-JT|職場を離れて行う研修・セミナー。体系的な知識を全員に揃えられる反面、現場での実践に結びつきにくい面があります
- 自己啓発支援|資格取得補助やeラーニングなど、社員の自発的な学びを支える施策。意欲の高い層は伸びますが、放置すると格差が広がります
この3つは対立するものではなく、組み合わせて設計するものです。人材育成の考え方や計画の立て方そのものを整理したい方は、人材育成の基本をあわせてご覧ください。
他社はどれくらい実施しているのか(公的データ)

自社の位置づけを知るために、厚生労働省の最新調査を確認しておきましょう。令和6年度「能力開発基本調査」によると、計画的なOJTを実施した事業所は64.7%(正社員に対しては61.1%)、OFF-JTを実施した事業所は73.8%(正社員に対しては71.6%)にのぼります。教育訓練費用を支出した企業は54.9%でした。
出典:令和6年度「能力開発基本調査」の結果を公表します|厚生労働省
7割以上の事業所がOFF-JTを実施している一方、計画的なOJTは6割台にとどまります。「研修はやっているが、現場での育成が仕組み化されていない」企業が一定数あることを示す数字と言えるでしょう。
【手法別】人材育成の具体例6選
ここからが本題です。現場で実際に運用されている育成手法を、具体的な実践イメージとあわせて6つ紹介します。
| 手法 | 具体例 | 向いている対象 |
|---|---|---|
| ①計画的OJT | 育成計画書に基づく週次の振り返り面談 | 新入社員・若手 |
| ②メンター制度 | 他部署の先輩が月1回キャリア相談に応じる | 新入社員・女性活躍推進 |
| ③1on1ミーティング | 上司と部下が週1回30分、部下のために対話する | 全階層 |
| ④階層別研修 | 新任管理職向けのマネジメント研修 | 昇格者 |
| ⑤ロールプレイ研修 | 商談・面談を模擬実演し、その場で講評する | 営業・面接官 |
| ⑥ジョブローテーション | 3年ごとに部署異動し複数業務を経験させる | 総合職・幹部候補 |
以下、それぞれの中身を具体的に見ていきます。
①計画的OJT|「見て覚えろ」からの脱却
具体例は、育成計画書を作成し、習得すべき業務を3カ月単位でリスト化する方法です。指導役の先輩が週1回15分の振り返り面談を行い、できるようになった項目にチェックを入れていきます。
多くの企業のOJTが機能しないのは、計画がなく、指導が指導役の裁量に委ねられているためです。何をいつまでに、誰が教えるかを紙に落とすだけで、育成の質は大きく変わります。
②メンター制度|斜めの関係で本音を引き出す
直属の上司ではなく、他部署の先輩社員がメンターとして月1回30分の相談に応じる仕組みです。評価者ではない相手だからこそ、「実は仕事についていけていない」といった本音が出てきます。
新入社員の早期離職防止や、ロールモデルの少ない層の定着に効果を発揮します。
③1on1ミーティング|週1回30分の対話を仕組みにする
上司と部下が定期的に一対一で対話し、経験の振り返りと関係構築を行う手法です。評価面談とは違い、「部下のための時間」として運用する点が重要です。
具体例としては、週1回30分を原則とし、上司が話す割合を2割以下に抑えるルールを設けます。話題は業務進捗に限らず、キャリアの悩みや体調まで含めます。対話の質を高めるには、経験を学びに変えるリフレクション(内省)の技術を上司側が身につけておくと効果的です。
④階層別研修|昇格のタイミングで必要な知識を揃える
新入社員研修・中堅社員研修・新任管理職研修のように、階層ごとに必要な知識をOFF-JTで揃える方法です。とくに新任管理職は、プレイヤーからマネジャーへの役割転換に苦しむ層です。労務知識・評価者としての心構え・フィードバックの技術を、昇格前後に集中的に学ぶ設計が有効です。
評価や面接を担う管理職には、面接官・評価者向けの研修を組み合わせると、育成と採用の両面で効果が出ます。
⑤ロールプレイ研修|実演し、その場で講評する
商談や1on1、面接の場面を模擬実演し、その場でフィードバックを受ける手法です。知識をインプットするだけの研修と比べ、行動レベルでの変化が起きやすい点が特徴です。具体的な進め方はロールプレイの活用方法にまとめています。
⑥ジョブローテーション|複数部署の経験で視野を広げる
一定期間ごとに部署を異動させ、複数の業務を経験させる制度です。幹部候補の育成や、部門間連携の強化に効果があります。一方で、専門性が育ちにくいという指摘もあるため、対象者と目的を明確にして運用してください。
※ 育成に時間がかかる領域では、外部からの採用と組み合わせるほうが早いケースもあります。IT/DX・エグゼクティブ・HR領域の人材採用は、coachee Agent Proへの相談もあわせてご検討ください。
【階層別】人材育成の具体例
同じ手法でも、階層によって設計すべき中身は変わります。階層別の具体例を整理しました。
| 階層 | 育成のゴール | 具体例 |
|---|---|---|
| 新入社員 | 基本動作の習得と定着 | 計画的OJT+メンター制度+3カ月ごとの振り返り面談 |
| 中堅社員 | 後輩指導と業務改善 | OJT指導者研修+業務改善プロジェクトへの参画 |
| 管理職 | 組織成果とメンバー育成 | 新任管理職研修+1on1の実践+360度フィードバック |
| 幹部候補 | 経営視点の獲得 | ジョブローテーション+経営会議への陪席 |
中堅社員は放置されやすい層です。「教える側」に回す設計を入れると、本人の理解も深まり、組織全体の育成力が上がっていきます。幹部層の育成については、幹部候補の育成方法も参考になるでしょう。
【企業事例】人材育成の成功例4選
実在企業がどのような育成を行っているかを見てみましょう。いずれも公開情報に基づく事例です。
ヤフー(現LINEヤフー)|1on1を全社の共通言語にする
上司と部下が週1回30分対話する「1on1ミーティング」を全社に導入しました。経験学習の理論に基づき、部下の経験を振り返らせて学びに変える対話を、制度として定着させています。
成功のポイント:対話を個人の善意に任せず、頻度と目的をルール化した点にあります。
サイバーエージェント|「抜擢」と振り返りをセットにする
若手を早期に責任あるポジションに登用し、その経験を振り返らせる育成を行っています。人材の適材適所を議論する会議体を設け、抜擢後のフォローまで含めて仕組み化している点が特徴です。
成功のポイント:機会を与えるだけで終わらせず、支援と振り返りをセットにしていることです。
カルビー|組織風土から育成環境を整える
DE&I推進の専任部門を設け、2030年度に女性管理職比率30%超を目標に掲げています。アンコンシャス・バイアスや心理的安全性の研修を各プログラムに組み込み、学びが活きる土壌づくりを進めています。
成功のポイント:研修単体ではなく、風土づくりと一体で設計していることです。
中小企業の例|助成金を活用して研修費用を抑える
自社だけで研修費用を負担するのが難しい場合、厚生労働省の「人材開発支援助成金」を活用する方法があります。職務に関連した専門的な訓練を実施した中小企業に対し、経費と訓練期間中の賃金の一部が助成される制度です。
成功のポイント:制度の要件は年度ごとに改正されるため、計画届の提出期限を含め、最新の支給要領を必ず確認してから設計してください。
人材育成でよくある失敗と対策
具体例を集めても、進め方を誤ると成果は出ません。つまずきやすい点を整理します。
※ 注意点:研修の実施回数や受講率は、育成の成果ではありません。成果は「現場の行動が変わったか」で測ってください。
失敗1:研修をやりっぱなしにする
研修後にフォローがないと、学びは1週間で消えます。対策は、研修後1カ月以内に上司との1on1で「学びをどう使ったか」を確認する仕組みを入れることです。フィードバックの手順を上司側に教えておくと、この振り返りの質が上がります。
失敗2:目的を決めずに手法から入る
「他社が1on1をやっているから」で導入すると、面談が雑談で終わります。何ができるようになってほしいのかを先に定義してください。
失敗3:育成の対象が若手に偏る
中堅・管理職の育成が手薄だと、指導する側の質が上がらず、OJTが機能しません。育成の対象は全階層に広げる必要があります。
【FAQ】人材育成の具体例に関するよくある質問
人事担当者の方から寄せられることの多い疑問にお答えします。
Q. 何から始めればよいですか?
計画的OJTの仕組み化から始めるのが現実的です。育成計画書を1枚つくり、誰が何をいつまでに教えるかを明文化するだけで、育成の再現性が生まれます。
Q. 中小企業でも人材育成の具体例を実行できますか?
できます。1on1やメンター制度は費用がほとんどかからず、人数が少ない組織のほうが導入しやすい面もあります。研修費用が課題なら、人材開発支援助成金の活用を検討してください。
Q. 人材育成の効果はどう測ればよいですか?
受講率ではなく、行動変容と業績への影響で測ります。研修前後のスキル評価、離職率、目標達成率などを継続的に追ってください。
Q. OJTとOFF-JTはどちらを優先すべきですか?
両輪です。OFF-JTで共通の知識を揃え、OJTで現場に落とし込む流れが基本になります。どちらか一方だけでは、知識が実務につながりません。
Q. 育成が追いつかない領域はどうすればよいですか?
専門性が高く育成に年単位の時間がかかる領域(IT/DX、経営幹部など)は、外部からの採用と併用するのが現実的です。育成と採用のどちらが早いかを、職種ごとに判断してください。
まとめ:具体例は「手法×階層」で組み立てる

人材育成の具体例は、手法と階層の掛け算で設計すると、自社に落とし込みやすくなります。要点は次の3つです。
- OJT・OFF-JT・自己啓発支援を組み合わせて設計する
- 階層ごとに育成のゴールを変え、中堅・管理職も対象に含める
- 研修後のフォローまで設計し、行動変容で効果を測る
まずは自社の育成計画を1枚の表に書き出し、階層ごとの空白を埋めることから始めてみてください。
育成と並行した人材採用は「coachee Agent Pro」へ
人材育成には時間がかかります。とくにIT/DXや経営幹部の領域では、社内育成だけで必要な人材を揃えるのは容易ではありません。次のような悩みを抱える企業は少なくありません。
- 育成を担える指導者・管理職が社内に不足している
- IT/DX・人事などの専門人材を採用したいが出会えない
- 採用できても組織になじまず早期に離職してしまう
coachee Agent Proは、IT/DX・エグゼクティブ・HR領域に特化したプロフェッショナル人材紹介サービスです。企業と求職者の双方を同じリクルーティングコーチが担当する「両面型」支援により、スキルだけでなく人柄・カルチャーフィットまで踏み込んだマッチングを行います。
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監修者プロフィール
高橋 秀誓(たかはし ひでちか) coachee株式会社 代表取締役
明治大学卒業後、パーソルキャリア(旧インテリジェンス)を経て総合人材サービス会社に勤務。求人広告・人材紹介・人材派遣・SESのソリューション提案、事業統括等に従事し、人材業界歴は約10年。エグゼクティブ・Web・IT・SI・HR領域でのリクルーティング支援・キャリア形成支援を行う。国家資格キャリアコンサルタント、ISO30414リードコンサルタント。キャリア相談実績は3,500人以上。