「提示できる年収が他社より低く、内定を出しても決めきれない」。中途採用、とくにIT・DX領域のミドル〜ハイクラス採用で、こうした悩みを抱える人事担当者は少なくありません。給与テーブルの上限は簡単には動かせず、候補者の前職年収に合わせると社内のバランスが崩れる。中途採用の給与の決め方に正解が見えないまま、毎回の内定で迷っている方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えします。ITコンサルタント・PM・DX人材などミドル〜ハイクラス層に特化した人材紹介会社のIT/DX・エグゼクティブ・HR領域に特化した人材紹介サービス「coachee Agent Pro」を運営する当社(coachee株式会社)が、転職を検討する候補者との面談45件を集計したところ、「条件次第で年収が下がってもよい」と自ら語った候補者は11名いました。そのうち9名(81.8%)は、上流工程や裁量の拡大といった「役割の広がり」と引き換えに年収ダウンを受け入れていました。年収アップを転職の第一動機に挙げた候補者は、45名中1名(2.2%)にとどまります。
この記事では、面談データをもとに、中途採用の給与の決め方の基本と、提示年収で他社に勝てないときに「役割の示し方」でオファーの競争力を補う方法を解説します。
30秒でわかるこの記事のポイント
- 当社(coachee株式会社)の候補者面談45件のうち、年収ダウンを許容した11名中9名(81.8%)は「役割拡大」が転職の動機だった
- 役割の拡大を求める人ほど、年収ダウンを受け入れやすい。役割拡大を求める人は24名中9名(37.5%)、求めない人は20名中2名(10.0%)で、約3.8倍の差があった
- 中途採用の給与は「等級(役割)→社内レンジ→前職年収と相場→レンジ内の位置」の順に決め、オファーでは年収と役割をセットで示す
調査の概要|候補者面談45件の内訳

集計に使ったのは、当社(coachee株式会社)が人材紹介の候補者と行った面談の記録です。期間と母数は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象期間 | 2026年7月22日〜10月16日 |
| 集計対象(n) | 45件(45名) |
| 主な職種 | PM・PMO、ITコンサルタント、DX推進・社内情報システム、開発エンジニアなど |
集計では、面談の中で候補者自身が語った内容だけを数えています。年収ダウンへの言及がなかった候補者は「許容」に数えていません。また、個人が特定されないよう、氏名・企業名・個人の年収は記事に載せていません。対象はIT・DX領域のミドル〜ハイクラス層が中心でです。
中途採用の給与はどう決めるべきですか?
中途採用の給与は、「任せる役割の大きさ」を起点に決めるのが基本です。前職年収や市場相場は、あくまで社内レンジの中で位置を決めるための材料として使います。
中途採用の給与を決めるときに使う要素は、大きく4つあります。
| 要素 | 何を見るか | 使い方 |
|---|---|---|
| 等級・役割 | 任せる職務の範囲と責任 | 給与レンジを決める出発点 |
| 社内の給与レンジ | 同じ等級の既存社員の水準 | 社内の公平性を保つ上限と下限 |
| 前職年収 | 候補者の現在の処遇 | レンジ内の位置を決める参考 |
| 市場相場 | 同職種・同等経験の採用水準 | レンジ自体が市場とずれていないかの点検 |
よくある失敗は、前職年収を起点に提示額を決めてしまうことです。前職年収に合わせると、同じ等級の既存社員との差が生まれやすく、入社後の評価や昇給で調整が難しくなります。かといって、社内レンジの上限で他社に勝てないときに打つ手がない、というのが多くの人事担当者の本音でしょう。
そこで参考になるのが、候補者が何と引き換えに年収ダウンを受け入れているかというデータです。
年収ダウンを許容した11名中9名は「役割拡大」と引き換えだった

当社(coachee株式会社)の面談45件のうち、「条件次第で年収が下がってもよい」と自ら語った候補者は11名(24.4%)でした。この11名が何と引き換えに年収ダウンを受け入れたのかを見ると、9名(81.8%)が上流工程・裁量・経営への関与といった役割の拡大を転職の動機に挙げていました。
役割拡大を求める層は、年収ダウンの許容率が約3.8倍

反対の方向からも確認しました。役割の拡大を転職の動機に挙げた24名のうち、年収ダウンを許容したのは9名(37.5%)です。役割の拡大を動機に挙げなかった20名では、2名(10.0%)にとどまりました。役割の拡大を求める候補者は、そうでない候補者の約3.8倍の割合で年収ダウンを受け入れていたことになります。
| 区分 | 人数 | うち年収ダウンを許容 | 許容率 |
|---|---|---|---|
| 役割の拡大が動機 | 24名 | 9名 | 37.5% |
| 役割の拡大は動機ではない | 20名 | 2名 | 10.0% |
※役割の拡大について面談で判断できなかった1名は除いています。
年収ダウンの幅を具体的な金額で語った7名の下げ幅は、現在の年収からおよそ1割〜3割強の範囲でした。「少しなら下がってもよい」という水準ではなく、役割次第で数百万円単位の減額も検討の対象に入っていたことになります。
残り2名は「60歳以降も働けること」と引き換えだった
年収ダウンを許容した11名のうち、役割の拡大を動機に挙げなかった2名は、いずれも定年後の働き方を自ら論点にしていました。定年後の再雇用で年収が大きく下がる見通しや、継続雇用の期限を前に「最後の挑戦の機会」と考えていることを理由に、今の年収にこだわらない姿勢を示していました。
つまり、年収ダウンを許容した11名は全員が、役割か長く働ける環境か、どちらかと引き換えに年収を手放していたことになります。年収ダウンを許容した11名のうち7名は50代以上でした。
年収アップが第一動機の候補者は45名中1名
一方で、年収アップを転職の第一動機に挙げた候補者は、45名中1名(2.2%)でした。年収はもちろん判断材料の一つですが、少なくともこの層では「いくら上がるか」より「何を任されるか」が転職を決める理由になっている、と言えます。
なぜ年収より役割が優先されるのか
役割の拡大を動機に挙げた24名の話を整理すると、現職での役割に対する不満は、次の3つに分けられました(いずれも面談内容を要約したものです)。
- 肩書と実態のずれ:PMの肩書でも実際はPMOの支援にとどまり、意思決定に関われない。社内にPMの職位がなく、相談しても役割が得られない。
- 関与の範囲が狭い:特定の工場や部署のDXに限られ、本社の基幹系や経営課題に関われない。短期案件の連続で、成果まで責任を持てない。
- 上が詰まって先がない:昇進しても上位の職位が埋まっており、マネジメントの経験を活かす場がない。
どれも、年収を上げても解消しない不満です。今の会社に残れば年収は維持できても、やりたい役割には届かない。だからこそ、役割が手に入るなら年収が下がってもよい、という判断になっていると考えられます。
また、50代の候補者では「年齢的に今が最後の機会」と自ら語る人も目立ちました。残りの職業人生をどの役割で過ごすかを考えたとき、年収の上下より役割の中身を重く見る傾向は、年代が上がるほど強くなると見られます。
年収で他社に勝てない企業にとって、これは不利ではなく機会です。提示年収の差を埋めるのは難しくても、任せる役割の具体性で差をつけることはできるからです。
中途採用の給与の決め方5ステップ
面談データを踏まえ、中途採用の給与を決める手順を5つのステップに整理しました。以下は一般的な進め方の例示です。自社の等級制度や規程に合わせて調整してください。
- 任せる役割と等級を先に決める:ポジションの職務範囲、意思決定の権限、成果の責任を言葉にし、どの等級に当たるかを決めます。
- 社内の給与レンジを確認する:同じ等級の既存社員の給与水準を確認し、提示できる上限と下限を把握します。
- 前職年収と市場相場を確認する:候補者の前職年収と、同職種・同等経験の採用水準を確認し、レンジが市場から大きくずれていないかを点検します。
- レンジ内の位置を決める:経験やスキルが役割の期待をどこまで満たすかで、レンジ内の位置を決めます。前職年収はここで参考にします。
- 年収と役割をセットで提示する:オファーでは金額だけでなく、任せる役割、権限、入社後に広がる範囲を具体的に伝えます。
ポイントは、ステップ1とステップ5です。役割を先に決めておかないと、オファーで示す材料が金額しか残りません。年収ダウンを許容する候補者が求めているのは、まさにこの「役割の中身」です。
給与で勝てないときにオファーで示す「役割」の書き方

年収を上乗せできないときは、役割をどれだけ具体的に示せるかがオファーの競争力になります。抽象的な表現と、候補者に届く具体的な表現の違いを例示します(記載例はすべて例示です。自社の実態に合わせて調整してください)。
| 項目 | 伝わりにくい例 | 伝わりやすい例 |
|---|---|---|
| 役割の範囲 | 上流工程からご担当いただけます | 入社後半年は基幹システム刷新の要件定義を担当。ベンダー選定の決裁会議に出席 |
| 権限 | 裁量の大きい環境です | 月額◯万円までの外部発注は部長承認のみで決定可能 |
| キャリアの広がり | 将来はマネジメントも目指せます | 1年後をめどに5名のチームリーダーを想定。同職種の直近の登用実績は◯名 |
| 長く働ける環境 | 年齢不問・長く活躍できます | 定年65歳、継続雇用は70歳まで。役職定年の制度はなし |
特に「長く働ける環境」は、50代以上の候補者にとって年収と並ぶ判断材料です。定年や継続雇用の条件を数字で示すだけでも、年収ダウンを受け入れる理由になり得ます。
求人票の段階から役割を具体的に書く方法は、面談データで見えたミドル・ハイクラス採用の分岐点と求人票の書き方で詳しく解説しています。内定後の辞退を防ぐ方法は内定辞退の防止策8つも参考にしてください。
よくある質問
中途採用の給与は前職年収に合わせるべきですか?
前職年収は参考にとどめ、社内の給与レンジの中で位置を決めるのが基本です。前職年収を起点にすると、同じ等級の既存社員との差が生まれ、入社後の評価や昇給で調整が難しくなります。
提示年収が他社より低い場合、どうすればよいですか?
任せる役割、権限、入社後に広がる範囲を具体的に示すことが有効です。当社(coachee株式会社)の面談では、年収ダウンを許容した11名中9名(81.8%)が役割の拡大と引き換えでした。
候補者に年収ダウンを打診してもよいですか?
候補者が自ら許容を示している場合でも、役割や将来の処遇の見通しとセットで伝えることが大切です。金額だけを伝えると、評価されていないと受け取られる可能性があります。
中途採用の給与テーブルはどう作ればよいですか?
職務の範囲と責任で等級を分け、等級ごとに上限と下限のある給与レンジを設けるのが一般的です。中途採用者もこのレンジに当てはめることで、既存社員との公平性を保てます。
50代の候補者に響く条件は何ですか?
当社(coachee株式会社)の面談では、年代が確認できた50代以上の候補者19名中17名が、年齢や長期就業を自ら論点にしていました。定年、継続雇用、役職定年の有無を具体的に示すことが判断材料になります。
coachee Agent Proで「役割で選ばれる採用」を
coachee Agent Proは、ITコンサルタント・PM・DX人材などミドル〜ハイクラス層を中心とした人材紹介サービスです。候補者との面談で、年収以外に何を重視しているか、どんな役割なら年収ダウンを受け入れるかまで聞き取り、企業の皆さまに共有します。
「提示年収では勝てないが、任せられる役割には自信がある」という企業さまこそ、ご相談ください。求人票やオファーでの役割の伝え方もあわせてご提案します。
まとめ|中途採用の給与は「役割」から決める
当社(coachee株式会社)の候補者面談45件では、年収ダウンを許容した11名中9名(81.8%)が役割の拡大と引き換えでした。残る2名も、60歳以降も働ける環境と引き換えでした。年収アップを第一動機に挙げた候補者は45名中1名(2.2%)です。
- 中途採用の給与は、役割と等級を先に決め、社内レンジの中で位置を決める
- 前職年収と市場相場は、レンジ内の位置とレンジの妥当性を点検する材料として使う
- 年収で勝てないときは、任せる役割・権限・長く働ける条件を具体的に示す
給与テーブルの上限は簡単には動かせません。それでも、役割の示し方は今日から変えられます。採用ミスマッチの原因について詳しく知りたい方は、面談33件で見た採用ミスマッチの原因もあわせてご覧ください。
監修者
高橋 秀誓(たかはし ひでちか)|coachee株式会社 代表取締役 / 情報管理責任者
国家資格キャリアコンサルタント、プロティアン認定ファシリテーター、人的資本開示国際規格 ISO30414 リードコンサルタント。有料職業紹介免許 14-ユ-302056。人材業界歴約10年。エグゼクティブ・Web・IT・SI・HR領域でのリクルーティングおよびキャリア形成支援に従事し、キャリア相談実績は3,500人以上。