労務管理とは?仕事内容8つと年間スケジュール・人事管理との違いを解説|coachee株式会社の画像
BLOG

労務管理とは?仕事内容8つと年間スケジュール・人事管理との違いを解説

hidechika-takahashi
coachee 広報チーム
記事を共有
労務管理とは?仕事内容8つと年間スケジュール・人事管理との違いを解説の画像

「労務管理の仕事内容を、体系的に整理し直したい」

「勤怠管理や人事管理と何が違うのか、社内にうまく説明できない」

「法改正が続いていて、自社の対応が追いついているか不安だ」

このような悩みを抱える人事・労務担当者の方は少なくありません。労務管理は範囲が広く、担当者が一人で抱え込みやすい領域だからです。

本記事では、労務管理の定義と目的、8つの仕事内容、月次・年次の年間スケジュール、必要な資格・スキル、システムの選び方までを解説します。数値や条文は労働基準法などの一次情報を確認したうえで記載しました。

読み終えるころには、自社の労務管理で抜けている業務が具体的に見え、次に着手すべき優先順位を判断できるようになります。

労務管理とは?人事労務管理との違いを簡単に解説

労務管理・人事管理・勤怠管理の違いを、対象範囲と主な業務で比較した表。勤怠管理は労務管理の一部であることを示す

労務管理とは、従業員が安心して働けるように、労働に関する手続きや記録、職場環境の整備を行う業務のことです。人事の世界では「人事労務管理」と呼ばれることもあります。

まずは定義と、混同されやすい人事管理・勤怠管理との違いを整理します。ここを押さえると、自社でどの業務が誰の担当なのかが明確になります。

労務管理の定義と対象となる法律

労務管理は、労働基準法をはじめとする労働関係法令にもとづいて行われます。従業員の入社から退職までの手続き、労働時間や賃金の記録、安全衛生の確保までが対象です。

具体的には、勤怠管理で出退勤時間を把握し、給与計算を行い、社会保険の加入手続きを進めます。労務管理が適切にできていないと、賃金の支払いミスや社会保険の加入漏れといった重大なトラブルを招きかねません。

労務管理が関係する主な法律は次のとおりです。

法律名 労務管理での主な関わり
労働基準法 労働条件の明示、労働時間、割増賃金、就業規則、法定帳簿の作成・保存
労働安全衛生法 労働時間の状況の把握、健康診断、ストレスチェック、衛生管理者の選任
労働契約法 労働契約の成立・変更・終了に関するルール
労働施策総合推進法 職場のパワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置
健康保険法・厚生年金保険法 社会保険の資格取得・喪失、報酬月額の届出
労働者災害補償保険法・雇用保険法 労働保険の加入手続き、年度更新、給付の申請

出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「労働基準法」

勤怠管理との違い

勤怠管理は、労務管理に含まれる業務の一つです。両者は対立する概念ではなく、包含関係にあります。

勤怠管理とは、従業員の出勤・退勤時間や休憩、有給休暇の消化状況などを記録・管理する業務を指します。一方で労務管理は、勤怠管理に加えて社会保険や給与、就業規則、安全衛生まで幅広く扱います。

つまり、勤怠管理は労務管理の土台にあたる業務です。勤怠データが不正確だと、給与計算も労働時間の是正も成り立ちません。

人事管理との違い

人事管理と労務管理は、いずれも自社の従業員に関する業務を扱います。ただし、目を向ける対象が異なります。

人事管理は、採用・配置転換・人事評価・育成といった「従業員の処遇」を管理する業務です。これに対して労務管理は、社会保険や勤怠、就業規則といった「働く条件と制度」を管理します。

3つの違いを表にまとめます。

項目 労務管理 人事管理 勤怠管理
目的 法令遵守と働く環境の整備 人材の最適配置と成長支援 労働時間の正確な把握
主な業務 法定帳簿、給与計算、社会保険、就業規則 採用、評価、配置、育成、研修 出退勤記録、残業時間、有給管理
主な根拠 労働基準法など労働関係法令 自社の人事制度・評価制度 労働基準法・労働安全衛生法
位置づけ 人事業務の土台 人事業務の攻めの領域 労務管理の一部

なお、企業によっては人事管理と労務管理を同じ意味で使う場合もあります。求人票や社内規程を読む際は、実際の業務範囲まで確認しておくと認識のずれを防げます。

労務管理の3つの目的

労務管理は「決められているからやる業務」ではありません。企業と従業員の双方を守るという明確な目的があります。

ここでは労務管理の目的を3つに整理します。目的を理解しておくと、業務の優先順位を判断しやすくなります。

目的1:法令を守り、企業を法的リスクから守る

第一の目的は、労働関係法令を守り、行政指導や刑事罰のリスクを避けることです。労働基準法には罰則規定があります。

たとえば労働時間や割増賃金に関する規定に違反した場合、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります。2025年6月1日の改正刑法施行にともない、条文上の刑名は「懲役」から「拘禁刑」に改められました。

また、就業規則の作成・届出義務や、法定帳簿の作成・保存義務に違反した場合も、30万円以下の罰金の対象です。労務管理は、企業を守る防波堤の役割を担っています。

出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「労働基準法」第百十九条・第百二十条

目的2:従業員が安心して働ける環境をつくる

第二の目的は、従業員が安心して働ける環境を整えることです。給与が正しく支払われ、休暇が取得でき、健康が守られる状態をつくります。

厚生労働省の令和7年就労条件総合調査によると、令和6年の年次有給休暇の取得率は66.9%でした。労働者1人平均の付与日数は18.1日、取得日数は12.1日で、いずれも昭和59年の調査開始以降で最も多い水準です。

一方で、取得率は産業によって差があります。同調査では「電気・ガス・熱供給・水道業」が75.2%と最も高く、「宿泊業,飲食サービス業」が50.7%と最も低くなっています。自社の水準を業界平均と比べる材料になります。

出典:厚生労働省「令和7年(2025年)就労条件総合調査 結果の概況」

目的3:生産性と定着率を高める

第三の目的は、企業の生産性と人材の定着率を高めることです。労務管理は守りの業務に見えて、経営指標に直結します。

労働時間が適正に管理されていれば、長時間労働による離職や健康障害を防げます。給与や評価に納得感があれば、従業員のエンゲージメントも高まります。

労務管理の実務レベルを点検したい方は、労務コンプライアンス15のチェックリストもあわせてご覧ください。自社の抜け漏れを短時間で洗い出せます。

労務管理の仕事内容8つ

労務管理の仕事内容8つ(法定三帳簿・労働契約・勤怠管理・給与計算・就業規則・社会保険・職場環境・福利厚生)を根拠条文つきで並べた図

労務管理の仕事内容は多岐にわたります。ここでは代表的な8つの業務を、根拠となる法令とあわせて解説します。

まず全体像を一覧で確認しましょう。

# 仕事内容 主な根拠 発生頻度
1 法定三帳簿の作成・管理 労働基準法第107条・第108条ほか 随時・毎月
2 労働契約の締結・管理 労働基準法第15条、労働契約法 入退社時
3 勤怠管理 労働基準法、労働安全衛生法第66条の8の3 毎日・毎月
4 給与計算 労働基準法第24条・第37条 毎月
5 就業規則の作成・管理 労働基準法第89条 随時
6 各種社会保険の手続き 健康保険法、厚生年金保険法ほか 随時・毎年
7 職場環境の改善 労働安全衛生法、労働施策総合推進法 通年
8 福利厚生の管理 各社会保険法令、自社規程 通年

それぞれ具体的に解説します。

法定三帳簿の作成・管理

法定三帳簿とは、企業に作成・保存が求められる次の3つの帳簿です。労務管理の出発点にあたります。

帳簿 根拠 主な記載内容
労働者名簿 労働基準法第107条 氏名、生年月日、履歴など
賃金台帳 労働基準法第108条 賃金計算の基礎となる事項、賃金額など
出勤簿 労働安全衛生法第66条の8の3ほか 出勤日、始業・終業時刻、労働時間

労働者名簿は、事業場ごとに労働者一人ひとりについて作成します。日々雇い入れられる者は対象外です。記載事項に変更があった場合は、遅滞なく訂正しなければなりません。

賃金台帳も事業場ごとに作成し、賃金支払いのつど遅滞なく記入します。労働時間数や時間外労働時間数も記載対象です。

出勤簿については、労働基準法に直接の規定はありません。ただし労働安全衛生法第66条の8の3により、事業者には厚生労働省令で定める方法で労働者の労働時間の状況を把握する義務があります。タイムカードや勤怠管理システムなど、客観的な記録の整備が前提となります。

保存期間にも注意が必要です。労働基準法第109条は、労働者名簿・賃金台帳および雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存すると定めています。ただし同法附則第143条により、当分の間は「3年間」と読み替えられます。実務上は3年が下限、5年保存が望ましい水準です。

出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「労働基準法」第百七条・第百八条・第百九条・附則第百四十三条

労働契約の締結・管理

人材を採用する際は、労働契約を結びます。労働基準法第15条により、使用者は労働契約の締結に際して、賃金や労働時間などの労働条件を労働者へ明示しなければなりません。

明示すべき事項や明示方法は厚生労働省令で定められています。書面の交付が原則であり、労働者が希望した場合は電子メール等での明示も可能です。

契約は締結して終わりではありません。契約更新、労働条件の変更、雇用形態の切り替えなど、内容の変更に応じて記録を更新します。有期契約の従業員が多い企業ほど、更新管理の仕組みづくりが効いてきます。

勤怠管理

勤怠管理は、従業員の出退勤時間、遅刻・早退、休日、有給休暇の消化状況を把握する業務です。給与計算と労働時間規制の両方の基礎になります。

時間外労働や休日労働をさせるには、労働基準法第36条にもとづく労使協定、いわゆる36協定の締結と届出が必要です。同条では、時間外労働の限度時間を原則として1か月45時間、1年360時間としています。

36協定を含む労使協定の全体像は、労使協定とは?種類一覧16と届出が必要なケース・就業規則との違いを解説で整理しています。どの協定に届出が必要かを一覧で確認できます。

勤怠管理をシステム化したい場合は、勤怠管理はAIで効率化できる?も参考になります。

出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「労働基準法」第三十六条

給与計算

勤怠実績をもとに、基本給、割増賃金、社会保険料、源泉所得税、住民税を計算します。毎月の締切が動かせない、責任の重い業務です。

割増賃金の計算は、法改正や働き方の多様化により以前より複雑になっています。月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が5割以上とされている点も、中小企業を含めて対応が必要です。

計算方法の詳細は、残業代の計算方法で解説しています。減給処分を行う場合のルールは、減給とはをご確認ください。

就業規則の作成・管理

労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対し、就業規則を作成して行政官庁へ届け出ることを義務づけています。記載事項を変更した場合も同様に届出が必要です。

同条には、始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定方法、退職に関する事項などが絶対的必要記載事項として列挙されています。退職手当や制裁の定めを置く場合も、その内容を記載します。

違反した場合は30万円以下の罰金の対象となります。組織を拡大するタイミングでは、必ず作成・届出の要否を確認してください。

就業規則は作成後の運用も欠かせません。従業員への周知を行い、法改正や制度変更に応じて見直します。詳しくは就業規則と労働基準法の関係をご覧ください。

出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「労働基準法」第八十九条

各種社会保険の手続き

健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険の加入・喪失手続きも労務管理の仕事です。入社、退職、育児休業、傷病による休業など、事由が発生するたびに届出が生じます。

近年で影響が大きいのが、社会保険の適用拡大です。2024年10月からは、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業で働く短時間労働者が加入対象となりました。さらに令和7年年金制度改正により、企業規模の要件は段階的に引き下げられます。

厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイトが示す対象時期は次のとおりです。

企業等の従業員数 短時間労働者の適用開始時期
51人以上 すでに加入対象
36〜50人 2027年10月
21〜35人 2029年10月
11〜20人 2032年10月
1〜10人 2035年10月

ここでいう従業員数は、フルタイムおよびフルタイムの4分の3以上の労働時間で働く従業員の数、すなわち厚生年金保険の被保険者数で判断します。法人の場合は法人全体で数えます。

加入対象となる短時間労働者の主な要件は、週の所定労働時間が20時間以上であること、2か月を超えて雇用される見込みがあること、学生でないことです。賃金要件を含む詳細は、特設サイトで最新の内容をご確認ください。

休業中の給付を扱う機会も増えています。休業補償とはで制度の概要を確認しておくと、いざというときに慌てずに済みます。

出典:厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」

職場環境の改善

ハラスメントの防止、高齢者や女性の活躍推進、健康管理の仕組みづくりも労務管理の役割です。安全で働きやすい職場は、採用力と定着率の両方に効きます。

労働施策総合推進法第30条の2により、事業主には職場のパワーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置が義務づけられています。相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備が求められます。相談したことを理由に不利益な取扱いをすることも禁止されています。

メンタルヘルス面では、労働安全衛生法第66条の10にもとづくストレスチェックの実施が求められます。検査結果は本人の同意なく事業者へ提供できません。高ストレス者から申出があった場合は、医師による面接指導を実施します。

出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」第三十条の二

福利厚生の管理

福利厚生には、法律で義務づけられた「法定福利厚生」と、企業が任意で設ける「法定外福利厚生」があります。制度の運用と費用管理も労務担当の仕事です。

区分 内容の例 企業の裁量
法定福利厚生 健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険、子ども・子育て拠出金 なし(法定義務)
法定外福利厚生 住宅手当、社宅、社員食堂、健康診断の上乗せ、資格取得支援 あり(任意)

法定外福利厚生は、採用市場での差別化にも直結します。制度を増やすだけでなく、利用率を測って見直す運用が欠かせません。

\労務の体制づくりを担える人材をお探しの方へ/

労務管理の守備範囲が広がるほど、実務を任せられる人材の確保が課題になります。制度設計から日々の手続きまで担える人材は、求人票の条件だけでは見極めにくい領域です。

  • 労務や制度企画を任せられる中核人材が採用できない
  • 人事担当が一人で、労務の属人化が解消できない
  • CHROや人事責任者クラスの採用に踏み切れていない
  • 応募は来るが、自社のカルチャーに合う人が見つからない

coachee Agent Proは、IT・DX、エグゼクティブ、HR(CHRO・人事全般・労務・制度企画/組織開発)の領域に特化した人材紹介サービスです。企業と求職者の双方を同じリクルーティングコーチが担当する両面型のため、人柄やカルチャーフィットまで踏み込んだマッチングができます。

労務管理の年間スケジュール【月次業務と年次業務】

労務管理の年間スケジュール。4月の入社手続きから6月の労働保険年度更新、7月の算定基礎届、年末調整、1月の法定調書提出までを月別に示したタイムライン

労務管理は、毎月繰り返す業務と、年に一度だけ発生する業務に分かれます。年次業務は忘れやすく、期限を過ぎると是正が難しいものもあります。

ここでは月次業務と年次業務を表で整理します。自社のカレンダーに落とし込む際の下敷きとしてご活用ください。

毎月発生する月次業務

月次業務は締日と支給日を軸に組み立てます。前工程が遅れると給与計算に直結するため、社内の締切を明確にしておきます。

時期の目安 業務 ポイント
月初 入退社手続き、社会保険の資格取得・喪失届 資格取得届は原則5日以内に提出
勤怠締日 勤怠データの締め・エラー確認 打刻漏れ、休憩未取得、深夜労働を確認
締日〜給与計算 勤怠確定、割増賃金・控除額の計算 36協定の上限超過がないか同時に点検
給与支給日 給与振込、給与明細の交付 賃金台帳へ遅滞なく記入
支給日後 源泉所得税・住民税の納付 納期の特例を利用しているか確認
月末 社会保険料の納付、勤怠・残業の実績集計 長時間労働者への面接指導の要否を判断

年に一度発生する年次業務

年次業務は法令で期限が定まっているものが中心です。特に6月から7月にかけては、労働保険と社会保険の手続きが重なります。

時期 業務 根拠・提出先
4月 新入社員の入社手続き、36協定の締結・届出、社会保険料率・雇用保険料率の反映 労働基準監督署・年金事務所
6月 住民税の特別徴収税額の切替 市区町村
6月1日〜7月10日 労働保険の年度更新(概算保険料の申告・納付) 労働保険徴収法第15条・労働局/労働基準監督署
7月1日〜7月10日 算定基礎届(報酬月額の届出)の提出 厚生年金保険法施行規則第18条・年金事務所
年1回(任意の時期) 定期健康診断、ストレスチェックの実施 労働安全衛生法
9月〜10月 標準報酬月額の改定反映、最低賃金改定への対応 年金事務所・都道府県労働局
11月〜12月 年末調整の書類回収・計算 税務署
1月 法定調書合計表・給与支払報告書の提出 税務署・市区町村
随時 就業規則の見直し、法改正対応 労働基準監督署

労働保険の年度更新は、労働保険徴収法第15条にもとづき、保険年度の6月1日から40日以内に申告・納付します。算定基礎届は、厚生年金保険法施行規則第18条により、毎年7月1日現在の被保険者の報酬月額を同月10日までに届け出ます。

この2つが重なる6月から7月は、労務担当者にとって最も負荷が高い時期です。5月中に対象者リストと必要書類を整えておくと、期限に追われずに済みます。

出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」第十五条

出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「厚生年金保険法施行規則」第十八条

労務管理の仕事内容を理解する際に押さえておきたい課題点

労務管理の仕事は、時代の流れに合わせて変化を続けています。従来の手続き業務だけでは対応しきれない論点が増えました。

ここでは、近年特に対応が求められている3つの課題を取り上げます。いずれも人事の企画力が問われる領域です。

ハラスメントへの対策

パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントという言葉は、今や日常的に使われています。しかし相談件数が減っているわけではなく、対策が十分とはいえない状況です。

事業主には、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて、雇用管理上の措置を講じる義務があります。相談窓口の設置、事実関係の迅速な確認、再発防止措置などが求められます。

人事には、規程の整備だけでなく、管理職研修や相談体制の運用改善まで含めた施策の立案・実行が期待されています。制度をつくって終わりにしない運用設計が鍵になります。

多様な働き方への対応

日本では、時短勤務やリモートワークなど多様な働き方をする人が増えています。背景には、少子化による働き手の減少と、女性や高齢者の労働参加の拡大があります。

従来は「正社員とアルバイト」の2分類で管理できていた企業も、いまは時短勤務者、リモートワーカー、派遣社員、業務委託など複数の就業形態を同時に扱います。就業規則や勤怠ルールを形態ごとに整理し直す必要があります。

厚生労働省の令和7年就労条件総合調査では、完全週休2日制を採用している企業の割合は65.5%で、前年調査の56.7%から上昇しました。休日制度そのものが動いている点も押さえておきましょう。

出典:厚生労働省「令和7年(2025年)就労条件総合調査 結果の概況」

IT技術を活用した生産性向上への対応

IT技術による業務効率化も、労務管理に求められる役割です。手作業の集計は、ミスと残業の温床になります。

たとえばタイムカードで勤怠管理を行っているなら、入退室記録と連動するシステムへの切り替えが検討できます。リモートワークを導入するなら、場所を問わず打刻・承認ができる仕組みが前提になります。

システム導入には初期費用と教育コストがかかります。ただし一度定着すれば、集計作業と確認作業の時間を継続的に削減できます。具体的な進め方は人事業務を効率化する4つの方法をご覧ください。

労務管理に必要な資格・スキル

労務管理は無資格でも担当できる業務です。ただし、専門資格や体系的な知識があると、判断のスピードと精度が上がります。

ここでは実務で評価されやすい資格と、資格以外に求められるスキルを整理します。採用要件を設計する際の参考にもなります。

社会保険労務士(社労士)

社会保険労務士は、労務管理の領域で唯一の国家資格といえる存在です。社会保険労務士法第2条は、労働社会保険諸法令にもとづく申請書等の作成、提出手続の代行、事務代理などを業務として定めています。

同法第27条により、社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じて報酬を得て、これらの事務を業として行うことができません。いわゆる独占業務です。

社内に有資格者がいれば、法改正の解釈や届出の判断を内製化できます。有資格者がいない場合は、顧問社労士と連携する体制を整えておくと安心です。

出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「社会保険労務士法」第二条・第二十七条

衛生管理者・産業医などの選任義務

安全衛生の領域には、法令上の選任義務があります。労働安全衛生法第12条は、政令で定める規模の事業場ごとに、免許等の資格を有する者から衛生管理者を選任するよう定めています。

同法第13条は、政令で定める規模の事業場ごとに、医師のうちから産業医を選任することを求めています。産業医は、労働者の健康確保のため必要があると認めるときは、事業者に対して勧告を行えます。

事業場の規模が拡大する局面では、選任義務の有無を必ず確認してください。選任漏れは監督指導で指摘されやすい項目です。

出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第十二条・第十三条・第六十六条の八の三・第六十六条の十

実務で求められる4つのスキル

資格以上に日々の成果を左右するのが、実務スキルです。求人票では見えにくい部分でもあります。

スキル 具体的な内容 伸ばし方の例
法令のキャッチアップ力 改正情報を一次情報で確認し、自社への影響を判断する 官公庁サイトの更新確認を定例業務に組み込む
数値の正確性 給与・保険料・労働時間を誤りなく処理する チェックリストとダブルチェック体制の整備
説明力・調整力 経営層や現場に制度変更を伝え、合意を得る 想定質問を事前に洗い出して資料化する
ITリテラシー 勤怠・給与・人事システムを使いこなし、連携させる 既存システムのAPI連携や自動化機能を検証する

労務管理システムの選び方

労務管理システムは、手続きの電子化と情報の一元管理を実現する手段です。ただし機能が多ければよいわけではありません。

ここでは、選定時に確認したい5つのポイントを解説します。自社の課題から逆算して比較してください。

観点 確認したいこと
対応範囲 勤怠・給与・入退社手続き・年末調整のどこまでを含むか
法改正対応 改正時のアップデート方針と提供時期が明示されているか
連携性 既存の給与システムや会計システムとデータ連携できるか
操作性 従業員がスマートフォンから申請・承認できるか
サポート・費用 導入支援の有無、初期費用と従業員1人あたりの月額

自社の課題に対応した機能があるか

最初に決めるべきは、解決したい課題です。入退社手続きの紙運用をなくしたいのか、勤怠集計の工数を削りたいのかで、選ぶべき製品は変わります。

現状の業務フローを書き出し、どの工程に何時間かかっているかを測ります。工数の大きい工程から機能要件を組み立てると、判断の軸がぶれません。

法改正への対応体制があるか

労務領域は法改正が頻繁です。システム側の改修が遅れると、担当者が手作業で埋める羽目になります。

契約前に、過去の改正でどの程度の期間で対応したかを確認しましょう。アップデート費用が別途かかるかどうかも、総コストに影響します。

既存システムと連携できるか

勤怠・給与・人事情報が別々のシステムに分散していると、二重入力が発生します。CSV連携かAPI連携か、連携できる項目は何かを具体的に確認します。

連携できない場合は、どの作業が手作業として残るかを事前に洗い出してください。導入後に想定外の工数が発生する事態を防げます。

従業員が使いこなせるか

労務管理システムは、人事担当者だけでなく全従業員が使います。申請画面が分かりにくいと、問い合わせ対応で人事の工数が増えます。

無料トライアルでは、人事担当者だけでなく現場の従業員にも操作してもらいましょう。実際の利用者の声が、導入後の定着率を左右します。

サポート体制と費用が見合うか

導入初期は設定作業と過去データの移行が発生します。初期設定を支援してもらえるか、専任担当が付くかを確認します。

費用は初期費用と月額費用の合計で比較します。従業員1人あたりの単価制が多いため、採用計画を踏まえた3年程度の総額で試算すると判断しやすくなります。

適切な労務管理を行うコツ

労務管理を適切に行うには、日々の習慣と体制づくりが効いてきます。個人の努力だけに頼ると、担当者が変わった瞬間に品質が落ちます。

ここでは、実務で押さえておきたい4つのコツを紹介します。

最新の法改正をチェックしておく

労働・社会保険に関する法令は、頻繁に改正されます。すべての改正が自社に影響するとは限りませんが、把握していないこと自体がリスクです。

情報源は一次情報に絞ると効率的です。厚生労働省の報道発表資料、e-Gov法令検索、日本年金機構のお知らせを定期的に確認する運用にしましょう。

確認のタイミングを月次業務に組み込むと、抜けがなくなります。担当者ごとに担当法令を割り振る方法も有効です。

適切に情報を管理する

労務管理は、従業員の個人情報を大量に扱う業務です。給与、家族構成、健康情報など、機微な情報が含まれます。

情報が流出すると、企業は社会的信用を失います。従業員の個人情報が不正に利用される事態も起こり得ます。

個人情報を社外に持ち出さない、アクセス権限を業務範囲に限定する、端末の管理ルールを明文化するといった対策を徹底しましょう。ストレスチェックの結果のように、本人の同意なく事業者が取得できない情報がある点にも注意が必要です。

業務を改善する意識を持つ

法改正やセキュリティ要件など、労務管理を取り巻く状況は毎年変わります。前例の踏襲だけでは、いずれ実態と合わなくなります。

担当業務のなかで改善できそうな工程があれば、上司に提案してみましょう。小さな自動化でも、年間の工数では大きな差になります。

改善の効果は数値で示すと通りやすくなります。「月◯時間の削減」「エラー件数◯件の減少」といった形で記録を残してください。

プロの意見を参考にする

社内に知見がないテーマは、外部の専門家に相談するのが近道です。判断を誤ったときの手戻りコストのほうが、相談コストより大きくなりがちです。

  • 新しい制度を導入したいが、社内に前例がない
  • 相談できる先輩がおらず、一人で人事を回している
  • 現在の運用が法令に適合しているか客観的に確認したい

このような場面では、顧問社会保険労務士や外部アドバイザーの活用を検討しましょう。あわせて、労務を任せられる人材の採用も選択肢になります。

ずさんな労務管理を行うことによる弊害

労務管理が適切に行われていないと、企業には具体的な不利益が生じます。抽象的なリスクではなく、実際に指導や請求という形で表面化します。

厚生労働省が公表した令和6年度の監督指導結果では、長時間労働が疑われる26,512事業場のうち、11,230事業場(42.4%)で違法な時間外労働が確認されました。決して他人事ではない水準です。

出典:厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します」

監督省庁から指導を受けて様々な不利益が発生する恐れがある

不適切な労務管理を続けていると、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。是正勧告に対応しなければ、送検されることもあります。

賃金不払も現実的なリスクです。厚生労働省によると、令和6年に全国の労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案は22,354件、対象労働者数は185,197人、金額は172億1,113万円にのぼりました。前年より件数・金額ともに増加しています。

指導や送検が公表されれば、取引先や求職者からの評価にも影響します。労務管理は、企業の信用そのものに直結する業務です。

出典:厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)を公表します」

従業員のモチベーションが低下し生産性が下がる恐れがある

労務管理がずさんだと、従業員の働く意欲は下がります。残業代が正しく支払われない、長時間労働が是正されない、有給休暇が取りにくいといった状態では、前向きに働き続けるのは困難です。

モチベーションの低下は、生産性の低下として業績に表れます。ミスの増加や情報共有の停滞など、目に見えにくい形で組織を蝕みます。

前掲の監督指導結果では、過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導された事業場が12,890事業場(48.6%)ありました。健康を損なう前に手を打つ体制が求められます。

従業員の離職や訴訟といったトラブルが頻発する恐れがある

ずさんな労務管理は、離職だけでなく訴訟にも発展します。未払残業代の請求や、ハラスメントを理由とする損害賠償請求などが典型です。

裁判に至れば、弁護士費用に加えて対応工数が発生します。本業以外に社内リソースを割かざるを得ません。

離職が増えれば、口コミサイトへの投稿や業界内での評判にも影響します。採用市場での競争力が落ち、さらに人手不足が進む悪循環に陥ります。

労務管理に関するよくある質問(FAQ)

労務管理について、担当者から寄せられることの多い質問をまとめました。自社の状況に当てはめながらご確認ください。

Q1. 労務管理と人事労務管理は同じ意味ですか?

ほぼ同じ意味で使われます。「人事労務管理」は、人事管理と労務管理を合わせた総称として用いられることが多い言葉です。求人票や社内規程では、実際の担当範囲が企業ごとに異なります。応募や配属の際は、勤怠・給与・社会保険・制度企画のどこまでを担うのかを個別に確認してください。

Q2. 法定三帳簿は何年保存すればよいですか?

労働基準法第109条は5年間の保存を定めていますが、同法附則第143条により当分の間は3年間と読み替えられます。したがって最低3年、可能であれば5年の保存が実務上の目安です。電子データで保存する場合も、必要なときに直ちに出力できる状態にしておく必要があります。

Q3. 従業員が10人未満なら就業規則は不要ですか?

労働基準法第89条の作成・届出義務は、常時10人以上の労働者を使用する場合に生じます。10人未満であれば法律上の義務はありません。ただし、労働条件を明確にし、トラブルを防ぐ観点から作成しておく意義は大きいといえます。将来の増員を見据えて、早めに整備しておく企業も少なくありません。

Q4. 社会保険の適用拡大は、自社にいつから関係しますか?

厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業は、すでに短時間労働者が加入対象です。36〜50人の企業は2027年10月、21〜35人は2029年10月、11〜20人は2032年10月、1〜10人は2035年10月から順次対象となります。従業員数は法人全体で数えるため、複数拠点がある場合は合算して判断してください。

Q5. 労務管理は未経験でも担当できますか?

未経験から担当している方も多くいます。ただし、給与計算や社会保険の手続きはミスが直接的な不利益につながるため、チェック体制が不可欠です。まずは勤怠管理や入退社手続きから業務範囲を広げ、並行して社会保険労務士試験の学習で体系的な知識を身につける進め方が現実的です。

Q6. 労務管理をアウトソーシングすべきか、社内で行うべきか迷っています。

判断軸は、業務の量と社内に残したい知見です。給与計算や年末調整のように定型性が高い業務は外部委託と相性がよく、就業規則の設計や制度企画は社内に知見を残す価値があります。まず業務を棚卸しし、定型業務と判断業務に分けて検討してください。

Q7. 36協定を締結していれば、残業は何時間でも認められますか?

認められません。労働基準法第36条は、時間外労働の限度時間を原則として1か月45時間、1年360時間と定めています。臨時的な特別の事情がある場合に限り、特別条項によってこれを超える協定が可能ですが、その場合も上限規制の範囲内である必要があります。協定の締結・届出と、実際の労働時間管理は必ずセットで運用してください。

まとめ|労務管理の仕事内容を理解して適切に業務を進めよう

本記事では、労務管理の定義と目的、8つの仕事内容、年間スケジュール、必要な資格・スキル、システムの選び方を解説しました。

労務管理は、法定三帳簿の作成から社会保険の手続き、職場環境の整備まで広い範囲をカバーします。労働基準法第109条の保存義務、第89条の就業規則の作成義務、社会保険の適用拡大など、期限や基準が明確な項目から順に点検していきましょう。

年間スケジュールを可視化し、月次業務と年次業務を切り分けるだけでも、抜け漏れは大きく減ります。そのうえでシステムや外部の専門家を組み合わせれば、担当者一人に負荷が集中する状態から抜け出せます。

\労務・人事の中核人材の採用をお考えの方へ/

労務管理の質は、最終的にそれを担う人によって決まります。制度を理解し、経営と現場の間で調整できる人材は、書類選考だけでは見極めが難しい存在です。

  • 労務や制度企画を任せられる人材を採用したい
  • CHRO・人事責任者クラスのポジションを埋めたい
  • 人事部門の立ち上げを一緒に進めてくれる人が欲しい
  • スキルは合っていても、カルチャーが合わずに早期離職が続いている

coachee Agent Proは、IT・DX、エグゼクティブ、HR(CHRO・人事全般・労務・制度企画/組織開発)領域に特化した人材紹介サービスです。企業と求職者の双方を同じリクルーティングコーチが担当する両面型のため、人柄やカルチャーフィットの見極め精度に強みがあります。まずはお気軽にご相談ください。

関連記事


監修者

高橋 秀誓(たかはし ひでちか)/coachee株式会社 代表取締役・情報管理責任者

国家資格キャリアコンサルタント、プロティアン認定ファシリテーター、人的資本開示国際規格 ISO30414 リードコンサルタント。有料職業紹介免許 14-ユ-302056。パーソルキャリア(旧インテリジェンス)を経て総合人材サービス会社に勤務し、求人広告・人材紹介・人材派遣・SESのソリューション提案、事業統括、会社設立等に従事。人材業界歴約10年。キャリア相談実績3,500人以上。エグゼクティブ・Web・IT・SI・HR領域でのリクルーティングおよびキャリア形成支援を行う。

※本記事は2026年9月1日時点の法令にもとづいて作成しています。個別の事案については、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士へご確認ください。

執筆|coachee 広報チーム

記事を書いた人
hidechika-takahashi
coachee 広報チーム

coachee 広報チーム

国家資格キャリアコンサルタントの資格を持つ高橋秀誓と、採用責任者、人事責任者などの豊富な経験を持つスタッフが率いるcoacheeの広報チーム。
皆様に採用や人事業務に役立つ情報を提供します。

関連ブログ

BLOG