「メンタル不調で休む社員が出たが、就業規則に休職の定めがなく対応に困っている」 「休職期間を何か月にすればよいのか、他社の水準がわからない」 「復職の可否を誰がどう判断するのか、社内で決まっていない」
人事・労務をご担当の方から、このようなお声をよく伺います。休職制度は法律で義務づけられた制度ではありません。だからこそ就業規則に定めがなければ運用の根拠がなく、いざというときに解雇か雇用継続かの二択を迫られてしまいます。
本記事では、休職制度を就業規則に定める際の実務を、規定すべき7項目、休職期間の決め方、復職判定の流れという順に整理します。厚生労働省の手引きと統計にもとづき、そのまま社内検討に使える形でまとめました。読み終える頃には、自社の就業規則で補うべき条文が具体的に見えているでしょう。
休職制度とは?法定外の制度だからこそ就業規則が根拠になる
休職制度とは、労働者が私傷病などの理由で働けなくなった場合に、労働契約を維持したまま一定期間の労務提供義務を免除する制度です。育児休業や介護休業と異なり、法律上の設置義務はありません。まずは、この「法定外」という性質が実務にどう効いてくるのかを確認していきましょう。
休職は労働基準法第89条の相対的必要記載事項
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と届出を義務づけています。同条第1号から第3号までは必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項ですが、休職はこれに含まれません。
休職制度は、同条第10号「前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」に該当する相対的必要記載事項です。制度を設けるのであれば就業規則に記載しなければならない、という位置づけになります。
定めがないと「解雇」しか選択肢が残らない
休職の定めがない場合、労務提供ができない状態が続く従業員に対して会社が取りうる手段は、普通解雇の検討に限られます。しかし療養すれば復帰が見込める人を解雇すれば、解雇権濫用(労働契約法第16条)として無効と判断されるリスクが高まります。
休職制度は、この二者択一を避けるための緩衝装置です。解雇を猶予し、療養期間を確保したうえで、復職できない場合の出口も定めておくという設計思想を押さえておきましょう。就業規則そのものの作り方は「就業規則と労働基準法の関係性」で詳しく解説しています。
メンタル不調による1か月以上の休業は10.2%の事業所で発生
厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいた事業所の割合は10.2%、退職した労働者がいた事業所の割合は6.2%でした。両者を合わせると12.8%の事業所で発生しています。
| 事業所規模 | 連続1か月以上休業した労働者がいた事業所割合 |
|---|---|
| 1,000人以上 | 88.2% |
| 300〜499人 | 70.7% |
| 100〜299人 | 52.2% |
| 50〜99人 | 24.8% |
| 30〜49人 | 10.9% |
| 10〜29人 | 4.2% |
100人規模を超えると半数の事業所で発生している計算です。「うちはまだ起きていない」という状態は、規模の拡大とともに変わると考えたほうが現実的でしょう。
出典:厚生労働省「令和6年『労働安全衛生調査(実態調査)』の概況」
休職制度で就業規則に規定すべき7項目

休職規定の不備は、トラブルが起きてから判明します。ここでは最低限盛り込むべき7項目を、実務上のポイントとあわせて整理します。
1. 休職事由の種類と範囲
どのような場合に休職を命じるかを列挙します。一般的には次の4つです。
- 私傷病休職|業務外の傷病により、欠勤が一定期間続いた場合が該当します。最も適用頻度の高い類型です。
- 事故欠勤休職|傷病以外の自己都合による欠勤が続いた場合が該当します。
- 起訴休職|刑事事件で起訴され、就労させることが適当でないと判断される場合が該当します。
- 自己都合休職|留学、公職就任、ボランティアなど会社が認めた場合が該当します。
私傷病休職では「業務外の傷病であること」を明記してください。業務上の傷病は労働基準法第19条により、療養のための休業期間とその後30日間は解雇が制限されるため、休職制度とは別の取り扱いが必要です。
2. 休職の要件と発令の主体
「欠勤が連続して〇日に達したとき」といった要件を数値で定めます。断続的な欠勤を通算するかどうかも明記しておかないと、出勤と欠勤を繰り返すケースで運用が止まります。
あわせて「会社が命じる」という発令主体を明記してください。「休職することができる」と労働者の権利のように書くと、会社側から休職を命じられなくなります。
3. 休職期間の長さと勤続年数による区分
後述のとおり、勤続年数に応じた段階設定が一般的です。休職期間の上限を定めておかないと、無期限に雇用が継続することになります。
4. 休職期間中の賃金・社会保険料の取り扱い
休職期間中は労務提供がないため、ノーワーク・ノーペイの原則により賃金は無給とするのが通例です。ただし社会保険料の被保険者負担分は発生し続けるため、その徴収方法(毎月振込、復職後に精算など)を明記しておきましょう。無給とする場合は、傷病手当金の案内もセットで行うのが実務的です。
5. 休職期間中の連絡義務と報告頻度
療養状況の報告頻度(月1回など)、報告先、診断書の提出タイミングを定めます。連絡が取れないまま期間満了を迎えるトラブルを防ぐための条項です。
6. 復職の要件と判定手続
「休職事由が消滅したと会社が認めたとき」と定めたうえで、主治医の診断書提出、産業医面談、会社による最終判断という流れを明記します。判定主体を会社に置くことが最大のポイントです。
7. 休職期間満了時の取り扱い
期間満了時に復職できない場合の効果を定めます。「自然退職とする」と規定するか「解雇する」と規定するかで、実務上の難易度が大きく変わります。この点は後ほど詳しく解説します。
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休職期間の決め方|勤続年数別に段階を設ける
休職期間の設定は、法律上の基準がないため各社の判断に委ねられています。だからこそ、考え方の軸を持っておくことが重要です。
勤続年数に応じた段階設定が実務の基本
多くの企業では、勤続年数に応じて休職期間を段階的に設定しています。企業への貢献度と休職コストのバランスを取る考え方です。
| 勤続年数 | 休職期間の設定例 |
|---|---|
| 1年未満 | 休職制度の対象外、または1〜3か月 |
| 1年以上3年未満 | 3〜6か月 |
| 3年以上10年未満 | 6か月〜1年 |
| 10年以上 | 1年〜1年6か月 |
上限を1年6か月に設定する企業が多いのは、健康保険の傷病手当金の支給期間(通算1年6か月)と整合させるためです。この水準を超えると、休職期間中の所得補償が途切れたまま在籍が続くことになります。
傷病手当金の支給期間と揃えるという考え方
傷病手当金は、支給を開始した日から通算して1年6か月支給されます(令和4年1月1日以降)。1日あたりの金額は、支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2です。
支給には、業務外の傷病であること、労務不能であること、連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと、休業期間について給与の支払いがないことという4条件をすべて満たす必要があります。無給の休職規定と組み合わせることで、従業員の生活を一定水準で支えられます。
出典:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
期間の通算規定を入れて再発に備える
メンタル不調は再発しやすく、復職から数か月で再度休職に入るケースがあります。通算規定がないと、短期間の復職をはさむたびに休職期間がリセットされ、事実上の無期限休職になりかねません。
「復職後〇か月以内に同一または類似の事由により再び休職する場合は、前後の休職期間を通算する」という条項を入れておきましょう。期間は6か月から1年で設定する例が多く見られます。
復職判定の進め方|厚生労働省の5ステップに沿って設計する

復職の可否判断は、休職制度の運用で最も難しい局面です。厚生労働省は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」で、職場復帰支援を5つのステップとして整理しています。
手引きが示す5つのステップ
手引きの枠組みは、私傷病全般の復職判定にも応用できます。
- 病気休業開始および休業中のケア|診断書の受理、休職発令、傷病手当金など制度の案内を行う段階です。
- 主治医による職場復帰可能の判断|主治医の診断書を受け取る段階です。診断書は「日常生活が送れる」水準で書かれることがあるため、これだけで復職を決定しません。
- 職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成|産業医の意見、業務内容との照合、上司へのヒアリングを踏まえ、会社が可否を判断し、復帰後の業務量調整プランを作る段階です。
- 最終的な職場復帰の決定|就業上の配慮事項を確定し、本人へ通知する段階です。
- 職場復帰後のフォローアップ|復帰後の症状再燃の有無、業務遂行状況を継続して確認する段階です。
出典:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
復職判定の主体を会社に置く条文にする
就業規則には「主治医の診断書および産業医の意見を踏まえ、会社が復職の可否を判断する」と明記してください。主治医の診断書のみで自動的に復職が決まる書き方にすると、業務遂行能力が回復していない状態での復帰を拒めなくなります。
あわせて「会社が指定する医師の診断を受けることを命じることがある」という受診命令の条項も入れておきましょう。この定めがないと、セカンドオピニオンを求める根拠がありません。
復職の判断基準は「従前の業務を通常程度に行える」水準
裁判例では、職種を限定していない労働契約の場合、従前の業務に復帰できなくても、配置可能な他の業務があれば復職を認めるべきとする判断が示されています。他方で、職種限定契約であれば、その職種の業務遂行が可能であることが基準になります。
就業規則には、リハビリ勤務・短時間勤務など段階的復帰の仕組みを設けておくと、判断の幅が広がります。試用段階での就業能力の見極めについては「試用期間に解雇は可能?不当解雇になるケース」も参考になるでしょう。
休職期間満了時の取り扱い|自然退職と解雇の違い

休職期間が満了しても復職できない場合の効果を、就業規則でどう定めるかは実務上の重要論点です。
自然退職と解雇の実務上の差
| 区分 | 法的性質 | 解雇予告の要否 | 争われた場合の論点 |
|---|---|---|---|
| 自然退職 | 労働契約の自動終了 | 不要 | 就業規則の定めの有効性、休職事由消滅の有無 |
| 解雇 | 使用者による一方的解約 | 30日前予告または予告手当 | 解雇権濫用(労働契約法第16条)該当性 |
多くの企業が自然退職として規定するのは、解雇予告や解雇権濫用の判断枠組みを避けられるためです。ただし自然退職と定めても、休職事由が消滅していたと後から認定されれば、退職扱いそのものが無効となる点は変わりません。
満了前の丁寧な手続きが紛争を防ぐ
期間満了の1〜2か月前に、本人へ書面で満了予定日と復職手続きを通知してください。通知の記録が残っていないと「知らされていなかった」という主張を招きます。
あわせて、退職後の傷病手当金の継続給付(被保険者期間が継続して1年以上あるなど一定要件を満たす場合)についても案内しておくと、円満な区切りにつながります。労務全般の点検項目は「労務コンプライアンス15のチェックリスト」で確認できます。
休職制度の整備は離職防止の観点でも効く
休職制度が整っていない職場では、不調を抱えた従業員が相談できないまま静かに離脱していきます。制度の存在自体が「体調を崩しても戻れる」というメッセージになり、エンゲージメントの維持にもつながるでしょう。関連する現象は「静かな退職とは?企業側のデメリットや原因、対策」でも取り上げています。
労務管理の全体像を整理したい方は「労務管理とは?仕事内容や勤怠管理・人事管理との違い」もあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 従業員が10人未満でも休職規定は必要ですか?
労働基準法第89条の就業規則作成義務は常時10人以上の事業場が対象ですが、10人未満でも休職規定を設けることは可能です。規定がなければ休職を命じる根拠がないため、規模にかかわらず整備をおすすめします。
Q2. 休職期間中も社会保険は継続しますか?
継続します。休職は労働契約が存続している状態のため、健康保険・厚生年金保険の被保険者資格は維持され、保険料の納付義務も続きます。無給の場合は給与から控除できないため、本人からの徴収方法を就業規則または個別の同意書で定めておいてください。
Q3. 休職期間は年次有給休暇の出勤率に算入されますか?
私傷病休職の期間は、原則として全労働日から除外して出勤率を計算します。労働基準法第39条第10項が出勤したものとみなすと定めているのは、業務上の傷病による療養期間、育児・介護休業期間、産前産後休業期間、年次有給休暇取得日です。私傷病休職はこれに含まれません。
Q4. 復職を認めないと判断した根拠は残すべきですか?
必ず残してください。産業医の意見書、主治医への照会内容と回答、面談記録、業務遂行能力の評価資料を時系列で保管します。後日争われた際、判断過程の合理性を示す唯一の材料になります。
Q5. リハビリ出勤中の賃金はどう扱いますか?
労働義務のある時間に実際に労務提供を受けているのであれば、賃金の支払いが必要です。無給の「試し出社」とする場合は、労働時間に該当しない運用(業務指示を出さない、成果物を受け取らない)を徹底しなければ、後から賃金請求の対象となります。就業規則には短時間勤務期間の賃金計算方法まで明記しておきましょう。
まとめ|休職規定は「入口・期間・出口」の3点で点検する
休職制度は法定外の制度であり、就業規則の定めがそのまま運用の根拠になります。整備にあたっては、次の3点から点検してください。
- 入口|休職事由と発令要件が数値で特定されているか。会社が命じる形式になっているか。
- 期間|勤続年数別の上限と通算規定があるか。傷病手当金の支給期間と整合しているか。
- 出口|復職判定の主体が会社に置かれているか。期間満了時の効果が明記されているか。
規定を整えたあとに残るのは、実際に発令し、面談を重ね、復職を判断する運用の負荷です。制度と運用体制はセットで考える必要があります。
\労務制度を「回せる」体制づくりを、人材採用の面から支援します/ 休職制度の整備は、条文を作った時点では半分しか終わっていません。次のような課題をお持ちでしたら、ぜひ一度ご相談ください。
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監修:高橋 秀誓(たかはし ひでちか) coachee株式会社 代表取締役/情報管理責任者。国家資格キャリアコンサルタント、プロティアン認定ファシリテーター、人的資本開示国際規格 ISO30414 リードコンサルタント。有料職業紹介免許 14-ユ-302056。人材業界歴約10年、キャリア相談実績3,500人以上。