「従業員の健康づくりに取り組みたいが、福利厚生の延長になってしまい、経営の成果につながっている実感がない」——人事・経営企画のご担当者からよくいただく声です。健康経営は、単なる健康イベントではなく、生産性の向上や人材の定着といった経営課題に直結する取り組みです。
- 健康経営という言葉は聞くが、具体的に何から始めればいいか分からない
- 「健康経営優良法人」の認定を取りたいが、要件やスケジュールが複雑
- 施策をやってはいるが、効果測定ができておらず社内で説明しづらい
本記事では、健康経営の意味とメリット、進め方の5ステップ、そして「健康経営優良法人2026」の認定区分・要件・最新の認定状況を、経済産業省の一次情報にもとづいて解説します。
健康経営とは|従業員の健康を経営的視点で捉える取り組み
健康経営とは、従業員の健康の保持・増進を「コスト」ではなく「投資」と捉え、経営的な視点から戦略的に実践する取り組みのことです。従業員が心身ともに健康で活き活きと働ける状態をつくることが、生産性の向上や組織の活性化につながり、結果として企業価値の向上をもたらす、という考え方に立っています。
背景には、人手不足の深刻化と、人的資本を重視する経営(人的資本経営)への潮流があります。限られた人材が最大限に力を発揮できる環境づくりが、企業の競争力を左右する時代になっているのです。とくに採用が難しい昨今、既存従業員が健康で長く活躍できることは、採用コストの抑制という観点でも経営に直結します。健康経営は、こうした複数の経営課題を同時に解決し得る打ち手として注目されています。
※「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
健康経営が注目される背景|見えにくい2つの損失

健康問題による企業の損失は、休職・離職といった目に見えるものだけではありません。次の2つの概念で整理されます。
| 概念 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| アブセンティーイズム | 心身の不調による欠勤・休職 | 病気休職、遅刻・早退 |
| プレゼンティーイズム | 出勤はしているが、不調で本来のパフォーマンスを発揮できていない状態 | 体調不良・睡眠不足・メンタル不調による能率低下 |
とくにプレゼンティーイズムは表面化しにくく、実は健康関連の損失の大きな部分を占めるとされています。健康経営は、こうした「見えにくい損失」に手を打つ取り組みでもあります。
健康経営に取り組む4つのメリット
1. 生産性の向上
心身の不調による能率低下を防ぎ、一人ひとりが本来の力を発揮できるようになります。プレゼンティーイズムの改善は、組織全体のアウトプットに直結します。
2. 人材の定着と採用力の向上
働きやすい環境は離職の抑制につながります。また、健康経営優良法人の認定などを対外的に示すことで、求職者に「従業員を大切にする会社」という印象を与えられ、採用競争力の向上も期待できます。従業員の意欲を高める視点は「【実践ガイド】従業員エンゲージメントとは?向上施策や事例、導入手順を解説」もあわせてご覧ください。
3. 医療費・労務リスクの抑制
予防的な健康づくりは、長期的な医療費負担の抑制や、健康起因のトラブル・労災リスクの低減につながります。
4. 企業イメージ・投資家評価の向上
健康経営は、人的資本開示やESGの観点からも評価されます。上場企業を対象とした「健康経営銘柄」に選定されれば、投資家への訴求材料にもなります。
健康経営優良法人2026|認定制度の全体像

健康経営を「見える化」する仕組みが、経済産業省と日本健康会議が実施する健康経営優良法人認定制度です。規模に応じて2つの部門があり、上位者には称号が付与されます。
| 部門 | 称号(上位者) | 2026認定数 |
|---|---|---|
| 大規模法人部門 | ホワイト500(上位500法人) | 3,765法人 |
| 中小規模法人部門 | ブライト500(上位500法人)/ネクストブライト1000(501〜1500位) | 23,085法人 |
認定は、企業が回答する「健康経営度調査」や申請書類の内容にもとづいて評価されます。上場企業のなかでとくに優れた企業は、別途「健康経営銘柄」に選定されます。
認定要件の目安
認定には、必須項目の充足に加え、選択項目を一定数以上満たす必要があります。2026の主な目安は次のとおりです。
| 区分 | 要件の目安 |
|---|---|
| ホワイト500(大規模) | 必須12項目+②〜⑰のうち14項目以上 |
| ブライト500/ネクストブライト1000(中小) | 必須7項目+残り17項目のうち16項目以上 |
| 中小・小規模特例 | 健康課題の把握・働き方・健康づくり等の項目群ごとに所定の要件を満たす(必須項目+項目群ごとの選択要件。詳細は公式の認定要件を参照) |
なお、ブライト500・ネクストブライト1000では、2025年からフィードバックシートの開示が要件に加わっています。要件は年度ごとに更新されるため、申請時は必ず最新の公表資料をご確認ください。
参考:経済産業省「健康経営優良法人2026 認定法人が決定しました」
具体的な健康経営の施策例
認定基準に関連する代表的な施策例を領域ごとに整理します。実施内容が認定要件を満たすかは、各項目の詳細な基準に照らして確認する必要があります。自社の課題データにもとづき、優先度の高いものから取り入れましょう。
| 領域 | 施策例 |
|---|---|
| 身体の健康 | 健診受診率の向上、精密検査の受診勧奨、運動機会の提供(ウォーキングイベント等) |
| メンタルヘルス | ストレスチェックの実施と集団分析の活用、相談窓口の設置、ラインケア研修 |
| 生活習慣 | 禁煙支援、食生活改善(社食のヘルシーメニュー等)、睡眠に関する情報提供 |
| 働き方 | 長時間労働の是正、有給休暇の取得促進、テレワーク・柔軟な勤務制度 |
| 推進体制 | 経営方針への明記、産業医・保健師との連携、担当部署の設置 |
施策は「実施して終わり」ではなく、参加率や指標の変化を測定し、健康経営度調査への回答や社内説明の根拠として蓄積していくことが大切です。長時間労働の是正は、待遇や評価の公正さともあわせて設計すると効果が高まります。
健康経営の進め方5ステップ

健康経営は、思いつきの施策の寄せ集めでは成果につながりません。次の5ステップでPDCAを回すのが基本です。
ステップ1|経営者による方針表明と体制づくり
まず経営トップが「健康経営に取り組む」ことを社内外に宣言します。担当部署・責任者を明確にし、産業医や保健師と連携できる体制を整えます。トップのコミットメントが欠かせません。
ステップ2|現状の把握
健康診断の結果、ストレスチェック、勤怠(残業時間)、離職率などのデータから、自社の健康課題を可視化します。ストレスチェックの位置づけは「ストレスチェック制度とは?義務化の対象と実施の流れをわかりやすく解説」も参考にしてください。
ステップ3|課題の特定と目標設定
把握したデータから優先課題を絞り込み、「残業時間◯%削減」「健診受診率100%」など、測定可能な目標を設定します。
ステップ4|施策の実行
運動機会の提供、食生活の改善、メンタルヘルス対策、禁煙支援、長時間労働の是正など、課題に対応した施策を実行します。安心して相談・挑戦できる土台づくりには、心理的安全性の観点も重要です(「心理的安全性とは?4つの因子と高める方法5ステップ・企業事例をわかりやすく解説」参照)。
ステップ5|効果測定と改善
設定した指標を定期的に測定し、施策の効果を検証して次の改善につなげます。この効果測定が、健康経営度調査への回答や社内への説明の根拠にもなります。
健康経営の効果を測る主な指標
健康経営を「福利厚生」で終わらせず経営成果につなげるには、効果測定の指標をあらかじめ決めておくことが重要です。代表的な指標を挙げます。
| 分類 | 指標の例 |
|---|---|
| 健康状態 | 健診受診率、有所見率、ストレスチェックの高ストレス者比率 |
| 労働・勤怠 | 平均残業時間、有給休暇取得率、傷病による休職・欠勤日数 |
| 組織・人材 | 離職率、エンゲージメントスコア、従業員満足度 |
| 生産性 | プレゼンティーイズム/アブセンティーイズムの損失指標 |
これらを毎年定点観測すると、施策の効果と課題が見えてきます。とくに離職率やエンゲージメントは、採用・定着の成果とも直結する指標です。数値の改善は、経営層や投資家への説明材料にもなります。
健康経営で失敗しないための注意点
- 担当者任せにしない|経営課題として位置づけ、トップと現場を巻き込む
- 施策をばらまかない|自社の課題データにもとづき、優先順位をつけて取り組む
- 「認定取得」を目的化しない|認定はあくまで手段。従業員が実際に健康で働けているかを見る
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よくある質問(FAQ)
Q1. 健康経営と福利厚生は何が違うのですか。
A. 福利厚生が従業員への待遇・サービスの提供であるのに対し、健康経営は従業員の健康を経営資源と捉え、生産性向上などの経営成果を目的に戦略的に取り組む点が異なります。効果測定を行い、経営課題と結びつけるのが健康経営です。
Q2. 中小企業でも健康経営優良法人の認定は取れますか。
A. 取れます。中小規模法人部門があり、上位500法人にはブライト500、501〜1500位にはネクストブライト1000の称号が付与されます。2026では中小で23,085法人が認定されています。
Q3. 何から始めればいいですか。
A. まずは経営トップの方針表明と体制づくり、そして健康診断・ストレスチェックなど既存データによる現状把握です。新たな費用をかける前に、自社の課題を可視化することから始めましょう。
Q4. 健康経営銘柄と健康経営優良法人の違いは何ですか。
A. 健康経営銘柄は上場企業のなかからとくに優れた企業を選定する制度、健康経営優良法人は上場・非上場を問わず一定の基準を満たした法人を認定する制度です。中小企業が目指すのは主に後者です。
Q5. 認定を取ると、採用に効果はありますか。
A. 「従業員の健康を大切にする会社」という客観的な証明になり、求職者への訴求材料になります。ただし実態が伴っていることが前提で、認定の取得自体を目的化しないことが重要です。
Q6. 健康経営優良法人の申請スケジュールはどうなっていますか。
A. 例年、夏ごろに翌年度認定分の申請受付が始まり、健康経営度調査への回答などを経て、翌年の春に認定法人が発表されます(2026認定は2026年3月に発表)。年度によって時期や様式が変わるため、申請を検討する場合は早めに経済産業省・運営事務局の最新案内を確認しておきましょう。
まとめ
健康経営は、従業員の健康を投資と捉え、生産性向上・人材定着・企業価値向上を目指す経営手法です。見えにくいプレゼンティーイズムの損失に手を打てる点も大きな意義があります。
進め方は「方針表明・体制づくり → 現状把握 → 課題特定・目標設定 → 施策実行 → 効果測定・改善」の5ステップが基本です。健康経営優良法人2026では大規模3,765法人・中小23,085法人が認定されており、認定は自社の取り組みを対外的に示す有効な手段になります。まずは自社の健康課題の可視化から着手しましょう。
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監修者
高橋 秀誓(たかはし ひでちか)|coachee株式会社 代表取締役 / 情報管理責任者
国家資格キャリアコンサルタント、プロティアン認定ファシリテーター、人的資本開示国際規格 ISO30414 リードコンサルタント。有料職業紹介免許 14-ユ-302056。人材業界歴約10年。エグゼクティブ・Web・IT・SI・HR領域でのリクルーティングおよびキャリア形成支援に従事し、キャリア相談実績は3,500人以上。
参考・出典
※本記事は2026年9月時点の情報にもとづきます。認定区分・要件・スケジュールは年度ごとに変更される場合がありますので、申請の際は必ず最新の公表資料をご確認ください。