「研修を実施したいが、予算が確保できない」——そう悩んでいる人事担当者の方は少なくありません。
- 経営層から「教育投資の費用対効果を示せ」と求められている
- 助成金があるとは聞くが、種類が多すぎてどれを使えばよいかわからない
- 申請の手間を考えると、結局申請せずに終わってしまう
本記事では、人材育成に活用できる助成金5種類の内容と助成率、申請の流れ、そして令和8年度(2026年度)の改正点を、厚生労働省の一次情報にもとづいて解説します。読み終えるころには、自社の育成計画にどの助成金を組み合わせればよいかの判断軸が得られるでしょう。
人材育成の助成金が注目される背景
助成金の中身に入る前に、なぜいま人材育成への公的支援が拡充されているのかを押さえておきましょう。背景を理解しておくと、申請時に社内稟議を通しやすくなります。
厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」(令和7年6月27日公表)によると、OFF-JTまたは自己啓発支援に教育訓練費用を支出した企業は54.9%でした。裏を返せば、約4割の企業は教育訓練に費用を投じていないことになります。
さらに同調査では、OFF-JTに支出した費用の労働者一人当たり平均額は1.5万円にとどまっています。年間1.5万円という水準は、外部研修を1回受講させれば消えてしまう金額です。
参考:厚生労働省「令和6年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」
このギャップを埋めるために設計されているのが、国の助成金制度です。とくに人材開発支援助成金は、訓練経費だけでなく訓練期間中の賃金の一部までを助成対象としており、「研修中は現場が回らない」という中小企業特有の悩みにも配慮された設計になっています。
人材育成に使える助成金5選

人材育成に関連する助成金は複数ありますが、実務で候補に挙がるのは次の5つです。まずは全体像を表で整理します。
| 助成金名 | 主な対象 | 助成の中心 | 所管 |
|---|---|---|---|
| 人材開発支援助成金 | 雇用する労働者への職業訓練 | 訓練経費・訓練中の賃金 | 厚生労働省 |
| キャリアアップ助成金 | 非正規雇用労働者の正社員化・処遇改善 | 転換1人あたりの定額助成 | 厚生労働省 |
| 業務改善助成金 | 事業場内最低賃金の引上げと設備投資 | 設備投資費用(研修費も対象) | 厚生労働省 |
| 人材確保等支援助成金 | 雇用管理制度の導入・職場定着 | 制度導入・運用経費 | 厚生労働省 |
| 自治体独自の助成金 | 都道府県・市区町村が指定する訓練 | 受講料等の一部 | 各自治体 |
人材開発支援助成金|人材育成の中核となる制度
人材開発支援助成金は、事業主が雇用する労働者に対して職務に関連した専門的な知識・技能を習得させる職業訓練等を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。人材育成目的で使う助成金としては、まずこの制度が第一候補になります。
キャリアアップ助成金|訓練と正社員化をセットで進める
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者やパートタイム労働者の正社員化・処遇改善に取り組む事業主を支援する制度です。正社員化コースでは、中小企業の場合、正社員化から6か月経過後の第1期として1人あたり40万円が支給されます。
さらに、雇入れから3年以上継続して就業している有期雇用労働者などの「重点支援対象者」を正社員化した場合は、12か月経過後の第2期として40万円が加算され、合計で最大80万円となります。
くわえて令和8年度(2026年度)4月8日には、正規雇用労働者等への転換に係る所定の情報を自社ウェブサイトまたは職場情報総合サイト「しょくばらぼ」に公表した場合の加算措置が新設されました。加算額は1事業所あたり20万円(大企業は15万円)です。
なお、正社員登用そのものの制度設計については「正社員登用制度とは?メリットや助成金、失敗しない運用の流れを徹底解説」で詳しく解説しています。
業務改善助成金|賃上げと教育投資を同時に行う
業務改善助成金は、事業場内最低賃金を引き上げ、あわせて生産性向上に資する設備投資等を行った中小企業・小規模事業者に対し、その費用の一部を助成する制度です。設備投資の対象には、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練も含まれます。
賃上げを予定している企業であれば、研修費用を賃上げ施策とセットで申請できる点が実務上のメリットと言えます。
人材確保等支援助成金|育成した人材の定着を支える
人材確保等支援助成金は、雇用管理制度の導入等により従業員の職場定着を図る事業主を支援する制度です。評価・処遇制度や研修制度の整備が助成対象となるコースが設けられています。
育成した人材が離職してしまえば投資は回収できません。育成(人材開発支援助成金)と定着(人材確保等支援助成金)を組み合わせて設計する発想が有効でしょう。
自治体独自の助成金|国の制度と併用できる場合がある
東京都をはじめとする自治体には、独自の人材育成関連助成制度があります。たとえば東京都のスキルアップ助成金は、事業内訓練・事業外訓練それぞれに助成枠が設けられています。
国の助成金と併給できるかは制度ごとに異なるため、必ず所管窓口に事前確認してください。
人材開発支援助成金の7コース
人材開発支援助成金には7つのコースがあります。自社の目的に合うコースを選ぶことが、受給の第一歩です。
| コース名 | 概要 |
|---|---|
| 人材育成支援コース | 職務関連の知識・技能の訓練、認定OJT付き訓練、非正規雇用労働者の正社員化を目指す訓練 |
| 教育訓練休暇等付与コース | 有給教育訓練等制度を導入し、労働者が休暇を取得して訓練を受けた場合に助成 |
| 人への投資促進コース | デジタル人材・高度人材の育成訓練、自発的訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)等 |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 新規事業立ち上げ等に伴い、新たな分野の知識・技能を習得させる訓練 |
| 建設労働者認定訓練コース | 建設関連の認定職業訓練・指導員訓練 |
| 建設労働者技能実習コース | 建設労働者への技能向上のための有給実習 |
| 障害者職業能力開発コース | 障害者の職業能力開発を行う施設の設置・運営費用の一部助成 |
助成率の目安

助成率はコースと企業規模、対象労働者によって変わります。令和8年度版パンフレット時点では、事業展開等リスキリング支援コースの中小企業における経費助成率は最大75%です。
また人材育成支援コースでは、有期契約労働者等に対する訓練の経費助成率が70%、賃金要件・資格等手当要件を満たす場合は85%に引き上げられます。
助成率は年度ごとに改正されるため、申請前に必ず最新の詳細版パンフレットで確認してください。
令和8年度(2026年度)の主な改正点
令和8年4月8日付けの改正では、次の3点が追加されました。
- 人材育成支援コース|中高年齢者実習型訓練の新設|中高年齢者を対象とした実習型訓練が新たに助成対象に加わりました
- 人への投資促進コース|新規採用助成・職務代行助成の追加|訓練実施に伴う人員手当を支援する枠組みが加わりました
- 事業展開等リスキリング支援コース|設備投資加算の新設|訓練とあわせた設備投資への加算が設けられました
さらに令和8年5月14日付けの支給要領改正により、訓練計画届の提出時期を問わず「受講料等の価格設定に関する疎明書(様式第28号)」の提出が必要となりました。すでに支給申請済みで支給決定・不支給決定がされていない案件も対象です。
また、「人への投資促進コース」と「事業展開等リスキリング支援コース」は令和8年度が最終年度となる見込みです。両コースの活用を検討している企業は、年度内の計画届提出を前提にスケジュールを組みましょう。
助成金申請の流れ5ステップ

助成金は「実施してから申請する」制度ではありません。訓練を始める前の計画届提出が必須です。ここでは人材開発支援助成金を例に、標準的な流れを整理します。
- 職業能力開発推進者の選任と社内体制の整備|事業所ごとに職業能力開発推進者を選任し、訓練実施体制を整えます
- 職業訓練実施計画届の提出|訓練開始日から起算して原則1か月前までに、管轄の労働局へ計画届を提出します
- 訓練の実施|計画届の内容どおりに訓練を実施し、出席簿・訓練日誌などの記録を残します
- 支給申請|訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に支給申請を行います。令和8年5月14日以降の申請では、様式第28号の疎明書を併せて提出します
- 審査・支給決定|労働局の審査を経て支給が決定されます
電子申請は「雇用関係助成金ポータル」から可能です。ただし令和8年5月14日の制度改正に対応した申請画面は準備中とされており、当面は申請画面内の「その他支給要件を確認するに当たって管轄労働局長が必要と認める書類」欄に疎明書を添付する運用となっています。
人材育成の助成金を活用するときの注意点
制度を正しく理解しないまま進めると、不支給となるリスクがあります。実務で押さえるべき点を挙げます。
訓練経費は無料になりません。 厚生労働省も明示しているとおり、助成金は経費の一部を助成する制度です。全額補填を前提に予算を組むと、資金繰りが破綻します。
計画届の事前提出を欠かすと受給できません。 「先に研修を実施してしまった」というケースは、原則として救済されません。育成計画と申請スケジュールを同時に引くことが不可欠です。
支給要件は毎年度改正されます。 前年度の資料をもとに準備を進めると、要件を満たさない事態が起こり得ます。必ず当該年度の詳細版パンフレットと支給要領を参照してください。
不明点は管轄の都道府県労働局に問い合わせるのが確実です。
育成した人材が定着しない、という課題はありませんか
助成金を活用して研修を充実させても、「育てた人材が辞めてしまう」「そもそも育成の土台となる中核人材が採用できない」という壁に突き当たる企業は少なくありません。
- 育成を担う管理職・リーダー層が慢性的に不足している
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よくある質問(FAQ)
Q1. 人材育成の助成金は、中小企業でなくても使えますか。
A. 使えます。人材開発支援助成金は大企業も対象ですが、助成率は中小企業のほうが高く設定されています。たとえば事業展開等リスキリング支援コースの経費助成率は、中小企業で最大75%です。
Q2. 助成金と補助金は何が違いますか。
A. 助成金は要件を満たせば原則として受給できる制度で、通年または長期間にわたり申請を受け付けます。一方の補助金は公募期間が限られ、審査による採択枠があります。人材育成分野では、まず助成金の活用を検討するのが現実的でしょう。
Q3. eラーニングやサブスクリプション型の研修も対象になりますか。
A. 人材開発支援助成金の「人への投資促進コース」には定額制訓練(サブスクリプション型)が含まれており、対象となり得ます。ただし訓練時間の要件など細かな条件があるため、詳細版パンフレットで確認してください。
Q4. 複数の助成金を併用できますか。
A. 制度の組み合わせによります。たとえば人材開発支援助成金の訓練修了者は、キャリアアップ助成金正社員化コースの「重点支援対象者」に該当します。一方で、同一の経費に対する重複受給は認められません。事前に労働局へ確認しましょう。
Q5. 申請から入金までどのくらいかかりますか。
A. 訓練終了後2か月以内に支給申請を行い、その後労働局の審査を経て支給決定となります。審査期間は労働局の状況により変動するため、資金繰り上は入金までに数か月を要する前提で計画してください。
Q6. 人材育成の全体設計から見直したい場合、何から始めればよいですか。
A. 助成金ありきではなく、育成計画の目的整理から着手することをおすすめします。考え方や計画の立て方は「人材育成とは?考え方や計画の立て方・具体的な手法までわかりやすく解説」を参考にしてください。
まとめ
人材育成に使える助成金は、人材開発支援助成金を中心に複数存在します。とくに人材開発支援助成金は7コース構成で、訓練経費と訓練期間中の賃金の双方が助成対象となる点が特徴です。
一方で、制度は毎年度改正されます。令和8年度は疎明書(様式第28号)の提出義務化や各コースの新設加算など変更点が多く、前年度の情報のままでは要件を満たせない可能性があります。申請前には必ず厚生労働省の最新パンフレットを確認し、管轄労働局に相談したうえで進めてください。
育成の手法そのものを見直したい方は「【人事向け】リフレクションとは?人材育成に活かす方法と導入のポイント」や「ロールプレイとは?ビジネス研修・面接での活用方法を人事向けに解説」もあわせてご覧ください。
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監修者
高橋 秀誓(たかはし ひでちか)|coachee株式会社 代表取締役 / 情報管理責任者
国家資格キャリアコンサルタント、プロティアン認定ファシリテーター、人的資本開示国際規格 ISO30414 リードコンサルタント。有料職業紹介免許 14-ユ-302056。人材業界歴約10年。エグゼクティブ・Web・IT・SI・HR領域でのリクルーティングおよびキャリア形成支援に従事し、キャリア相談実績は3,500人以上。
参考・出典
※本記事の助成率・支給額は令和8年度版の公表資料にもとづく情報です。制度は改正される場合がありますので、申請時は必ず最新の詳細版パンフレットおよび管轄労働局の案内をご確認ください。