M&A・コンサル
M&A仲介への転職ガイド|仕事内容・成約までの流れ・報酬と選考対策
公開日 2026.10.16
この記事の監修者
髙橋 秀誓coachee株式会社 代表取締役
パーソルキャリア(旧インテリジェンス)等で求人広告・人材紹介・人材派遣の提案や事業統括に従事したのち、coachee株式会社を設立。メーカー・コンサル・ITなど、10年以上にわたり幅広い業界・年代の転職を支援。
「M&A仲介は年収が高いと聞くけれど、実際どんな仕事なのか分からない」「営業経験しかない自分でも通用するのか」。M&A仲介への転職を考え始めた営業職の方から、こうした声をよく聞きます。華やかなイメージが先行しやすい一方で、業務の中身や報酬の仕組みは外から見えにくい職種です。
この記事では、M&A仲介の仕事内容、ソーシング(案件獲得)から成約までの流れ、報酬体系の考え方、求められる資質、営業経験がどう評価されるか、そして選考対策までを順番に整理します。読み終えるころには、自分がM&A仲介を目指すべきか、目指すなら何を準備すればよいかが具体的に見えるはずです。
M&A仲介とはどんな仕事か
M&A仲介とは、会社や事業を「譲り渡したい側(譲渡企業)」と「譲り受けたい側(譲受企業)」の間に立ち、両者の合意形成と取引の完了までを支援する仕事です。日本では、後継者がいない中小企業のオーナーが、第三者への承継を選ぶケースの相談先として利用されることが多い領域です。
似た言葉に「FA(ファイナンシャルアドバイザー)」があります。FAは売り手か買い手のどちらか一方の代理人として、その側の利益を最大化する立場です。一方、仲介は双方から依頼を受けて中立的な立場で間を取り持ちます。上場しているM&A仲介会社の有価証券報告書でも、成約時に「譲渡先と買収先の双方より成約報酬を受領」するビジネスモデルであることが説明されています(株式会社ストライク 第29期有価証券報告書)。
双方から依頼を受ける構造上、利益相反への配慮は欠かせません。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、仲介者に対して、双方の代理であることの明示、利益相反が想定される事項の開示、手数料体系や提供業務の説明などを求めています。M&A仲介の仕事は「契約を取ってくる営業」であると同時に、こうしたルールの下で両当事者の信頼を預かる専門職でもあります。
M&A仲介とFAの違い
| 項目 | M&A仲介 | FA(ファイナンシャルアドバイザー) |
|---|---|---|
| 立場 | 売り手・買い手の双方から依頼を受け、中立的に調整 | どちらか一方の代理人 |
| 主な顧客 | 中小企業のオーナーが中心になりやすい | 中堅〜大企業の案件も多い |
| 報酬の受け取り先 | 原則として双方 | 依頼した一方 |
| 求められる姿勢 | 両者の利害調整と合意形成 | 依頼者の利益最大化 |
転職市場で「M&A仲介」と呼ばれる求人の多くは、前者の仲介会社のコンサルタント職です。この記事でも主にそちらを想定して解説します。
ソーシングから成約までの流れ
M&A仲介の仕事は、1件の案件が完了するまでに長い期間と多くの工程を伴います。会社によって分業の度合いは異なりますが、一般的な流れは次のとおりです。
- ソーシング(譲渡案件の発掘):経営者への手紙・電話、セミナー、金融機関や士業からの紹介などを通じて、譲渡を検討しうるオーナーと接点を作ります。
- 初回面談・ヒアリング:会社の歴史、事業の強み、従業員や取引先への思い、オーナー自身の希望(引退時期、条件など)を丁寧に聞き取ります。
- 提携仲介契約の締結:正式に依頼を受け、契約を結びます。ガイドラインに沿って手数料体系や業務内容の説明が必要です。
- 企業評価・資料作成:決算書などをもとに企業価値の目安を算出し、買い手候補に提示する概要書(ノンネームシート、企業概要書)を作成します。
- 買い手候補の探索・マッチング:匿名の状態で候補企業に打診し、関心があれば秘密保持契約を結んだうえで詳細情報を開示します。
- トップ面談・条件交渉:売り手と買い手の経営者同士が会い、相性や方針を確認します。その後、価格や引き継ぎ条件の交渉を進めます。
- 基本合意・デューデリジェンス:基本合意後、買い手側が財務・法務・事業面の調査を行います。仲介者は資料準備や論点整理を支援します。
- 最終契約・クロージング:最終条件を固めて契約を締結し、株式などの引き渡しと代金決済をもって取引が完了します。
このうち、営業出身者が最初に向き合うのはソーシングです。多くの仲介会社では、コンサルタント自身が譲渡案件を開拓することを重視しており、ここが仕事の起点であり、もっとも成果の差が出やすい部分でもあります。一方で、案件を受託した後は、財務の読み解き、資料作成、交渉の調整など、専門性の高い業務が続きます。「営業力だけ」でも「知識だけ」でも成約まで届きにくいのが、この仕事の特徴です。
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報酬体系の考え方と年収の目安
M&A仲介を検討する方がもっとも気になるのが年収でしょう。まず前提として押さえておきたいのは、報酬体系はファームごとに大きく異なるという点です。固定給の比率が高い会社、成約実績に連動するインセンティブの比率が高い会社、評価制度で賞与を決める会社など、設計はさまざまです。
上場企業の開示データから分かること
公開情報で確認できるものとして、上場しているM&A仲介会社の有価証券報告書に記載された「平均年間給与(賞与及び基準外賃金を含む)」があります。
- M&Aキャピタルパートナーズ株式会社:第20期有価証券報告書(2025年9月期)によると、提出会社の従業員296名、平均年齢32.4歳、平均年間給与は約2,266万円(22,658千円)
- 株式会社ストライク:第29期有価証券報告書(2025年9月期)によると、提出会社の従業員452名、平均年齢33.2歳、平均年間給与は約1,521万円(15,210千円)
この数字を見るときは、いくつか注意が必要です。まず、これは管理部門などを含む提出会社全体の平均であり、コンサルタント個人の年収を示すものではありません。また、成果連動の比率が高い会社では、個人間のばらつきが大きくなりやすく、平均値だけで「入社すればこの水準」と判断するのは危険です。さらに、ここに挙げたのは開示義務のある上場企業の数値であり、非上場の仲介会社や中小の仲介会社の水準は分かりません。
求人を見るときに確認したいポイント
- 固定給と賞与・インセンティブの比率、インセンティブの算定根拠(売上、成約件数、チーム実績など)
- 成約が出るまでの期間の給与水準(入社後しばらくは成約が出にくいため)
- 案件の取り扱い(自分で開拓した案件と、会社から割り当てられる案件の扱いの違い)
- 評価期間とインセンティブの支給タイミング
インセンティブ制度の一般的な仕組みについては、営業のインセンティブ制度の仕組みで詳しく解説しています。M&A仲介は1件の金額が大きく成約までの期間も長いため、他業界の営業インセンティブとは感覚が異なる点も意識しておきましょう。
M&A仲介で求められる資質
M&A仲介の採用では、スキルそのものよりも「この仕事をやり切れるか」という資質が重視される傾向があります。代表的なものを整理します。
経営者と対等に話せる胆力と誠実さ
相手の多くは、何十年も会社を経営してきたオーナーです。人生をかけて育てた会社を託す相手として信頼されるには、若手であっても臆せず話し、約束を守り、都合の悪いことも正直に伝える姿勢が欠かせません。
断られ続けても行動量を落とさない粘り強さ
ソーシングでは、接触した経営者の多くはすぐには譲渡を考えていません。時間をかけて関係を作り、検討のタイミングが来たときに思い出してもらえる存在になる必要があります。目先の反応に一喜一憂せず、行動を積み上げられるかが問われます。
数字と文章に強い学習意欲
決算書の読み解き、企業評価、契約書の論点、税務の基礎など、入社後に学ぶことは膨大です。最初から知識がある必要はありませんが、自分で学び続ける習慣があるかどうかは見られます。
関係者を調整する力
売り手と買い手だけでなく、税理士、弁護士、金融機関など、多くの関係者が関わります。それぞれの立場や懸念を理解しながら、案件を前に進める調整力が必要です。
営業経験はどう評価されるか
M&A仲介の中途採用では、営業経験者を歓迎する求人が少なくありません。ただし、「営業をしていた」という事実だけで評価されるわけではありません。見られやすいのは次のような点です。
- 新規開拓の経験:既存顧客のルート営業よりも、ゼロから接点を作ってきた経験はソーシングとの親和性が高いと見られやすいです。
- 経営層・決裁者との商談経験:法人営業で社長や役員と直接やり取りしてきた経験は、オーナー経営者との対話に直結します。
- 無形商材・高単価商材の経験:形のない価値を言語化し、検討期間の長い商談を進めてきた経験は評価されやすい傾向があります。
- 再現性のある成果:一時的な好成績ではなく、継続して目標を達成してきた実績と、その背景にある工夫です。
逆に言えば、個人向けの営業や既存顧客中心の営業出身でも、「なぜ成果を出せたのか」「どう行動量を維持したのか」を具体的に語れれば十分に評価対象になります。成果をどう数字で表現するかは、営業実績の数字の書き方・伝え方も参考にしてください。
なお、財務や会計の知識があれば有利になる場面はありますが、必須とは限りません。簿記などの学習に取り組んでいることは、学習意欲を示す材料として面接で伝えるとよいでしょう。
M&A仲介の選考対策
M&A仲介の選考は、面接回数が多めであったり、役員クラスが早い段階から面接に出てきたりと、人物を深く見ようとする会社が少なくありません。準備のポイントを整理します。
志望動機は「なぜM&A仲介か」を自分の言葉で
「年収が高いから」だけでは通用しません。事業承継という社会的な課題への関心、経営者と向き合う仕事への思い、自分の営業経験をより大きな意思決定の場で活かしたい理由など、自分の経験とつながる動機を言語化しましょう。そのうえで「なぜこの会社か」を、その会社の方針や体制から説明できるようにしておくと説得力が増します。
実績は「行動」と「工夫」まで分解する
面接では、成果そのものよりも、成果に至るまでのプロセスを深掘りされることが多いです。どれだけの行動量をこなしたか、断られたときにどう切り替えたか、どんな仮説で動き方を変えたかを、具体的なエピソードで話せるよう準備しておきましょう。
ストレス耐性や覚悟を問う質問への備え
「成約が出ない期間が続いたらどうするか」「なぜ今の会社では駄目なのか」といった、覚悟を確かめる質問もよく聞かれます。きれいごとではなく、自分なりに仕事の厳しさを理解したうえでの答えを用意しておくことが大切です。仕事の厳しさについてはM&A仲介はきつい?実態と向いている人で詳しくまとめています。
基本的な面接対策も怠らない
結論から話す、質問の意図に沿って答える、逆質問を準備するといった基本は、M&A仲介でもそのまま重要です。営業職の面接全般のポイントは営業職の面接対策で確認できます。
M&A仲介への転職を判断するためのチェックポイント
最後に、応募を決める前に自分に問いかけておきたい点をまとめます。
- 成約までに時間がかかり、成果が出ない期間があることを受け入れられるか
- 新規開拓の行動量を、自分の意思で継続できるか
- 財務や法務などの知識を、業務外の時間も使って学ぶ意欲があるか
- 報酬体系の違いを理解したうえで、自分に合う会社を選べているか
- 経営者の人生の大きな決断に関わる責任を、前向きに引き受けられるか
これらに「はい」と答えられるなら、M&A仲介は営業経験を大きく伸ばせる選択肢になりえます。一方で迷いがある場合は、コンサルティング会社や法人営業の上流ポジションなど、近いキャリアと比較してみるのも一つの方法です。
まとめ:M&A仲介は営業経験を活かせる、覚悟の要る専門職
M&A仲介は、ソーシングから成約まで長い道のりを伴い、営業力と専門知識の両方が求められる仕事です。上場企業の開示では高い平均年間給与が確認できますが、報酬体系はファームごとに大きく異なり、個人差も大きいため、求人ごとに制度を確認することが欠かせません。営業経験、特に新規開拓や経営層との商談経験は評価されやすく、選考では「なぜM&A仲介か」と「成果に至ったプロセス」を自分の言葉で語れるかが鍵になります。
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